20年以上会っていないのに、図々しい…
遺言がなかった、あるいは遺言に不備があって無効になったことによって、どのようなトラブルが起こるのか、事例と共に見ていきましょう。
《事例1》
被相続人であるAさんは結婚歴がなく、10年前から同じく独身の妹・B子さんと同居していました。
Aさんは、B子さんと20年前に亡くなった弟・Cさんとの3人兄弟でした。被相続人Aさんの自宅は、もともとAさん、B子さん、Cさん三兄弟の親が建てたもので、親の死後、名義はAさんになっていました。
Aさん亡き後、B子さんは、家の名義を自分に書き換えようとして、初めて、亡くなった弟の息子・Dさんが、代襲相続人であることに気がつきました。B子さんが最後にDさんに会ったのは、20年前のCさんの葬儀の席で、それ以来、連絡を取っていませんでした。
そこで、家の名義をB子さん名義に移転登記することに対して、了承のハンコを押してほしいと、書面で頼みました。
ところがDさんは、弁護士を立てて「自分にも相続権があるのだから、財産はきっちり半分に分けてほしい」と主張し、譲りません。3カ月経った今も解決がつかず、B子さんは精神的に疲弊しきっています。
Aさんは代襲相続人の存在にまで頭が回らず、「自宅はB子に相続させる」という旨の遺言がなかったために、亡くなった後、妹と甥の間でトラブルに発展してしまいました。Dさんと財産を半分ずつ分けるとなると、現在、B子さんが住んでいるAさん名義の家を処分するしかありません。
血縁の濃い兄弟なら、お互いの事情をよく分かっているので、そこまでの無茶は言わないのではないでしょうか。しかし、長年、ほとんど顔を合わせていない甥・姪との関係となると、関係はかなり希薄になります。そして、関係が希薄であればあるほど、思いがけない財産が入ってくることが分かったとき、相手の事情も考えず、ドライにお金に執着する傾向が顕著になっていきます。
◆遺言書さえあれば…
筆者も、代襲相続人の立場の人から、「長く会っていない伯母から、『ハンコ代として20万円を支払うので、相続放棄してほしい』という手紙が来た。どうしたらいいだろうか」というような相談を受けたことがあります。
相手の弁護士が、「こちらは亡くなった父親と母親の世話で、1000万円かかったのだから、その分を引かせてもらう」など、脅しともとれる言い方をしてきたこともありました。
被相続人の名義になっている不動産が東京都区内の交通の便のいい場所にあり、調べてみると土地だけで1億円を超えることが分かったケースもあります。代襲相続人にしてみたら、数十万円のハンコ代で済ませられてはかなわない、というところでしょう。
話をB子さんのケースに戻しますと、疎遠になっていた甥に、移転登記のためのハンコをもらわなくてはならなくなったこと自体が、すでにトラブルになっているといえます。冒頭に書いたように、「自宅はB子に相続させる」と、ひと言、遺言書があれば、わざわざ何十年も顔を合わせたことのない甥に、連絡を取る必要もなかったのです。
結局、B子さんはAさん名義の家と土地を売却し、売却代金およびその他の財産を、甥のDさんと半分ずつ分けることになりました。
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