戦後の発展によって「地盤が沈む国土」になった
まず、地盤沈下が起きる大きな要因のひとつとしてよく取り上げられるのが、地下水の汲み上げです。
特に戦後の日本では、急激な産業の発展により、主に工業用水として盛んに地下水の汲み上げが行われました。地下水を過剰に汲み上げると、その周辺の地層の水分までも吸い取ってしまい、地盤の体積が減少。その結果、広い範囲にわたって、地面が沈降してしまうのです。
高度経済成長期、日本各地でこうした地盤沈下が発生して、大きな社会問題になりました。この時期、光化学スモッグやヘドロの発生、環境悪化による深刻な公害病などの問題も各地で起きましたが、その後制定された環境基本法においては、大気汚染や水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、悪臭と並んで、地盤沈下は「典型7公害」のひとつにあげられています。
その被害を抑えるため、すでに1960年代以降、地下水の汲み上げに対して制限が加えられるようになりました。また、現在でも全国の地盤沈下地域は環境省が継続的にチェックを行い、沈下が著しい場合にはその都度特別な対策も行われるようになっています。
こうして、地下水の揚水による地盤沈下はだいぶ緩和されてきたといえるのですが、それでも「問題が解決した」ということではありません。
たとえば北関東地域では、栃木県南部を中心に現在でも地下水の汲み上げによる地盤沈下が深刻で、もともと地下にあった水道管が地表に出てしまったり、河川の堤防が沈下して洪水の危険性が高まったりという問題が起きています。同地域では、できるだけ地表を流れる河川の水を利用する方向に転換するなどの対策も進められていますが、沈下を抑えるまでには至っていません。