Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

神がインスピレーションを送り込んでくださる

走りながら考える

 

アーティストには直感、ひらめきも大事です。例えば、岡本太郎。岡本は、著書の中で次のように述べています。

 

「気まぐれでも、何でもかまわない。ふと惹かれるものがあったら、計画性を考えないで、パッと、何でもいいから、そのときやりたいことに手を出してみるといい。不思議なもので、自分が求めているときには、それにこたえてくれるものが自然にわかるものだ」(『強く生きる言葉』イースト・プレス)

 

アーティストには直感、ひらめきも大事だという。(※写真はイメージです/PIXTA)
アーティストには直感、ひらめきも大事だという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

パブロ・ピカソも、まったく計画性がなく、行き当たりばったりで創作を行っていた人でした。ピカソの創作意欲はすさまじいものでしたが、決まったルールや日程といったものはなかったといいます。

 

ピカソはひとつの作品を完成させる前に、新たな芸術的直感がひらめくため、未完成の状態で放置された絵も多く、親友のサバルテスによれば、「思いついたことをやり遂げる前に、すぐ他のことに着手するので、ひとつのことをやり遂げる時間が到底ない」と何度も語っていたそうです。

 

芸術家と聞くと、つい岡本太郎やピカソのような、インスピレーションがとめどもなく湧き上がってくるような天才肌の人を連想するかもしれませんが、インスピレーションだけに頼らずに、創作している芸術家も多く存在します。

 

「白鳥の湖」「眠れる森の美女」「くるみ割り人形」などの名曲を残した、クラシック音楽界の巨匠チャイコフスキーは、次のように述べています。

 

「インスピレーションを待っていたら何も書けない。私は毎朝必ず作曲をする。そうすると神がインスピレーションを送り込んでくださるのだ」

 

小説家の村上春樹も雑誌のインタビューで、こう答えています。

 

「とにかく自分をペースに乗せてしまうこと。自分を習慣の動物にしてしまうこと。一日十枚書くと決めたら、何があろうと十枚書く。(中略)いま僕がそう言うと『偉いですね』と感心してくれる人がけっこういますけど、昔はそんなこと言ったら真剣にばかにされましたよね。そんなの芸術家じゃないって。芸術家というのは気が向いたら書いて、気が向かなきゃ書かない。そんなタイムレコーダーを押すような書き方ではろくなものはできない。原稿なんて締め切りがきてから書くものだとか、しょっちゅう言われていました。でも僕はそうは思わなかった」(『考える人』新潮社/2010年8月号)

 

実際に岡本太郎やピカソのような創作意欲の塊を除けば、多くのアーティストは偶然のインスピレーションが降りてくることに対して、過度の期待を寄せていません。

 

むしろ大成しないアーティストほど、考えてばかりで手を動かそうとしていないのが実情です。とりあえず走りながら考える、そうしていると自然と集中して、インスピレーションに恵まれることもあるのです。

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アート思考

アート思考

秋元 雄史

プレジデント社

世界の美術界においては、現代アートこそがメインストリームとなっている。グローバルに活躍するビジネスエリートに欠かせない教養と考えられている。 現代アートが提起する問題や描く世界観が、ビジネスエリートに求められ…

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