Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

芸術は運がよくなければ社会的、経済的に報われない

「自由」で「主体的」な存在

 

直島時代に、世界的に有名な建築家の安藤忠雄と建築とアートの違いの話をしたとき、やはり「クライアントが存在する、存在しない」の話題になりました。その後、安藤が、現代アートの奇妙奇天烈さを思い出したのか「あれはあかんでー!」と笑いながら話していたのを思い出します。

 

安藤の建築は超個性的です。ときにクライアントが「住めない」と漏らすほど自己表現が強い安藤から見ても、現代アーティストというのは、強烈に自我が強く、自由な人たちだということです。

 

皆さんにそのままアーティストのようになれとは言わないですが、組織にいる場合も独立心と心の自由は、持ったほうがいいでしょうし(今の時代はむしろこのような精神を持つべきかもしれません)、むしろ組織と自分の望みが100パーセント一致するという方が、気持ちが悪いでしょう。

 

芸術というのはよほど運がよくなければ社会的かつ経済的に報われないという。それはなぜか。(※写真はイメージです/PIXTA)
芸術というのはよほど運がよくなければ社会的かつ経済的に報われないという。それはなぜか。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

また、組織から独立して、自ら事業を立ち上げていくようなタイプは、アーティスト的な気質の人たちが多いという気がします。アーティストは、総じてKY(空気を読まない)ですが、ビジネスパーソンもそれと同じくらいのほうが個性的な仕事ができると思います。

 

アートは、「自由」で「主体的」な存在です。それをつくり出すアーティストも「ビジョン」を持ち、それを実現することを優先する「自由」な心を持つ「主体性」がある人たちです。

 

クライアントがいて、その人たちと向き合い、課題を解決するために提案をするデザインと比較すると、アートはずいぶんと好き勝手な存在のように映るでしょう。ただ、社会に対する目的の設定の仕方がデザインとは少々異なり、長期的な視野に立った普遍的な命題となりがちであると考えれば納得がいくかもしれません。

 

このような存在ゆえ、芸術というのはよほど運がよくなければ社会的かつ経済的に報われません。例えば、現代アートが前衛といわれた20世紀初頭から中盤までは、現代アートは明らかに時代の片隅にいて、過激なことを言っていた少数派でしかなかったのです。経済的にも恵まれませんでした。

 

ところが1950年代、60年代頃から、現代アートはアメリカを舞台に拡大し、アートの中心的な潮流になっていきます。80年代、90年代には、世界の美術史を現代アートで塗り替え、今や世界の隅々にまで拡がっています。

 

現代アートの流れを振り返りながら思うのは、たとえ今は少数派であったとしても決して諦める必要はないということです。時代が変われば、流れが変わり、周辺のものが中心に躍り出ることはいくらでも歴史の中ではあるのです。このように、どんなものでもメインに躍り出る可能性を秘めているのですから、そのためには強い信念を持って一貫した姿勢で続けていくことが大切なのです。

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アート思考

アート思考

秋元 雄史

プレジデント社

世界の美術界においては、現代アートこそがメインストリームとなっている。グローバルに活躍するビジネスエリートに欠かせない教養と考えられている。 現代アートが提起する問題や描く世界観が、ビジネスエリートに求められ…

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