生き残りのカギを握るのはコミュニケーション
AIは、すでに新型コロナウイルス感染症の最前線においても、画像診断や感染拡大の予測といった公衆衛生分野で活躍しています。今やAI無くして新型コロナウイルス感染症の終息は語れません。
また、AIによるビッグデータ解析が進むことにより、遠隔でも画像診断が行えるようになってきています。このため、不足している病理医や放射線科医の業務を補うためにAIを活用している医療現場ではAIとWin-Winの関係が生まれているのです。
ただ、いかにAIが医療現場で活躍しても、救急医療の現場に医師や看護師がいなくては、患者さんへの採血や点滴さえできません。そういった意味では、医療的手技・手術全般においては、医療者の存在が絶対に必要です。
さらには、コロナの影響で医療機関への受診を控えざるを得ない高齢者などの往診に携わってくれている医師・看護師たちも、AIにとって替わることができない職種のひとつです。コロナ禍にかかわらず、往診では「この間、どのように生活していたか」「調子が悪いところはないか」と患者さんとコミュニケーションをとる必要がありますから、AIが代役を果たすのは難しいのです。
そして、がんの宣告はもちろんのこと、インスリン治療導入や生活習慣病の介入などにおいても、AIに勧められて「はい、そうですね」とすぐに受け入れられる患者さんはかなりの少数派でしょう。「専門の医師と話さないと納得できない」というのが大方の心情ではないでしょうか。
とはいえ、AIのコミュニケーション能力が急速に進化すれば「あのお医者様より、AIの方がずっと私の話を聴いてくれる」「コミュニケーションを取ることが苦手なあの医師が主治医になるのなら、むしろAIと会話し最先端の情報を得て、治療方法は自分で決めたい」と希望する患者さんも出てくるという、笑えない状況が現実化するかもしれないのです。
ですから、頭は良いけれども、コミュニケーションを取るのが苦手で、ましてやスペシャリティも弱い医者は、淘汰されていくしかないという恐ろしい時代の到来がすぐそこまで来ている、と私は考えています。そういった意味では、漠然と風邪の患者だけを診て、救急患者は診ない、往診もしないという診察スタイルをとる開業医は、一番先にAIの波に飲み込まれていく可能性があるので要注意です。
AIが突き付ける、それぞれの医師の立ち位置
外科といえば激務なことも多いですが、だれもが“医師の花形”だと憧れる職種です。
しかし、この外科離れが、近年、若い医師たちのなかで著しく目立ってきています。あまりにも入局者が減ってきているために、かなり深刻な事態に陥っている医局や病院も少なくありません。救命救急センターで高いレベルの救急応対を行い、外科で力を発揮するに違いないと周囲から期待されていた何人もの研修医が、外科を選ばずにマイナー科と呼ばれる診療科に入局していくのを私自身、目の当たりにしました。
特に医学部生や研修医は、ここで自らの将来をAIの存在を踏まえて熟考する必要があります。今後どのあたりの医療分野がAIの影響を大きく受けるかを考慮しながら、どの診療科に入局し、専門にしていくかを、今一度考え直す必要があるといえます。
特定の診療科の診断や風邪などの軽微な診療については、AIに任せておけば大丈夫といったことが、近い将来には当たり前になる可能性もあり得ます。そうなると、一般的な診療ほどAIに取って変わられていってもおかしくありませんから。
新型コロナウイルス感染症のパンデミック下において、私たち医師は、今までになく“自らの医師として立ち位置”を見据える必要性を突き付けられました。これからの医師はAIが医療の現場に入ってくることで自分の仕事のスタイルが変わることを想定しなければなりません。そこでも “自らの医師として立ち位置”を見据える力が求められていくはずです。
AIと共存共栄して、さらに高いレベルの未来型医療を担っていくためには、医学的知識だけでなく、外科的技能や、往診といったホームドクター的存在、そして卓越したコミュニケーション能力を持つ内科医といった、AIでは成しえない領域をカバーしてくれる医師であることが今後ますます強く求められていくのです。
佐藤文彦
Basical Health産業医事務所 代表