一般企業では既に始まっている時間外労働の上限規制が、2024年4月から医師にも適用される。勤務医の時間外労働時間を「原則、年間960時間までとする」とされているが、実現は困難ではないかとの指摘も。その「医師の働き方改革」を実現した医師がいる。「現場のニーズに応え、仕事の流れを変えれば医師でも定時に帰宅できる」という。わずか2年半で、どのように医師の5時帰宅を可能にしたのか――、その舞台裏を明らかにする。

医師の強敵か?瞬時に的確な診断を下すWatson

これから、医師たちが挑戦しなければならない課題は、「医師の働き方改革」だけではありません。AIとどうかかわっていくのかも、深く考えておく必要がありそうです。

 

医師という職業が、消えることはもちろんありませんが、仕事の中身については良くも悪くもAIの影響を大きく受けていくでしょう。私自身、日本IBM社内でAIの開発部門や営業部門の人たちと話しをした中で、AIを身近で感じ、「これからの時代、AIが医療現場も大きく変革させていく」ことを確信しています。

 

IBM社が開発したAI「Watson(ワトソン)」がどのように医療現場で使われているのか、マスコミでも多く取り上げられた症例でご紹介します。

 

東京大学医科学研究所付属病院に急性骨髄性白血病で入院していた60歳代女性は、2種類の抗がん剤治療を半年続けたものの期待通りの回復が望めず治療方針を決めあぐねていました。ゲノム解析が終わっていたため、Watsonによる分析を実行。Watsonは、2000万件以上という膨大な医学論文データなどを学習・分析し、それを元に答えを導き出すのです。10分間程度で終わった解析の結果には、「二次性白血病」というタイプであり、抗がん剤の変更が提示されていました。

 

医師は、その分析が正しい可能が高いと判断し、新たな抗がん剤での治療を始めました。女性は数カ月後で回復し、退院してきました。「AIが患者の命を救った、国内初のケース」として、マスコミでも数多く取り上げられ、これにより一気にWatsonの注目度が高まっていったのです。

 

どんなに優秀な医師でも、超最先端の英語の医学論文を1つ読むのに1時間程度はかかります。それが2000万件となると、読むことに一生涯をつぎ込んだとしても、まだ全く足りません。ましてやその中から該当文献を探し当てる作業を人間が行うことは、非現実的です。どんどん学習して、それらをすべてインプットしているという意味では、AIは“超人的”であると言えます。

 

東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター所長の宮野悟氏は、「人工知能のパワースーツを着た医師たちが登場して、東大医科研では未来はとっくに始まっています」と語っています(『医の希望』岩波文庫、齋藤英彦:編、「人知を超えて医療を支援するAI:宮野悟」より)。

 

こうやって、優秀な専門医や臨床医をサポートする存在として、AIが活用されていくことは、私たちに非常に明るい未来を示してくれています。

 

一方で、ただ頭だけがよく、コミュニケーションを取ることが苦手な“医師”たちの仕事が、AIに凌駕されてしまう可能性は否めません。昨今は、空前の医学部ブーム。全国の超優秀な進学校でトップを誇る学生が医学部に入学してきています。

 

しかし、情報量ではAIには全く歯が立ちませんから、頭脳だけが強みの医学部生は今後AIが広く行き渡った時に肩身の狭い思いをすることになるかもしれません。猛勉強してせっかく医者になったのに、AIの活躍によって臨床医を続けることすら難しい時代になっていく。そんな悲しい現実が待っている可能性もAIの活動は秘めているのです。

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