いま、士業は過渡期を迎えようとしています。「AIに士業の仕事が奪われる」――。そんな言葉も目にするようになりました。しかし、士業のすべてなくなるわけではなく、人間にしかできない仕事がまだまだあります。AIやITなどの技術革新が続くなか、士業の仕事に付加価値をつけ、どのように仕事を獲得していけばいいのか税理士で公認会計士として活躍する著者が明らかにします。本連載は藤田耕司著『経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)から一部を抜粋し、再編集したものです。

ITやAI技術を活用して低価格でも利益が出せる仕組み

「自動化されやすい業務」の事業戦略

技術を敵に回すのではなく「使う側」に回る

 

基本戦略① 「自動化されやすい業務」は、効率化と低コスト化を行い、相場が下がっても利益が出せる体制を作る

 

まず、基本戦略①についてですが、参謀、経営参謀をめざすとしても、現時点で自動化されやすい手続き業務などが収益の柱で、顧客も多くいる場合には、その業務を継続する必要があるでしょう。ただし、自動化が進めば相場の低下が見込まれるため、相場が下がっても利益が出せるように低コスト化することが必要です。

 

現在、世界で数十人の人が人類の半分の富を手にしているといわれますが、その多くはIT関連の仕事、つまり「技術を使う側」の仕事をしており、今後も技術を使う側の人が富を手にし、技術を敵に回した人が失業のリスクにさらされると思われます。

 

これは士業の業界でも同様であり、ITやAIなどの技術を敵に回すか、使う側に回るかで将来の明暗は分かれるでしょう。士業の業務でもITやAIを使った新技術やシステムを導入すれば、大幅に効率化と低コスト化が図られ、低価格でも利益が出せる仕組みができます。月数千円から使えるAIソフトの導入やクラウドサービスの活用によっても大幅な効率化は図れます。

 

そういった仕組みを作り、報酬を下げてより多くの顧客獲得を図り、シェアを拡大する事務所が増えていけば業界全体の相場は下がります。特に申請書作成や登記など、あまり腕の差が出ない単純作業は業界相場の影響を受けやすいので、そのような仕事で利益を確保し続けるには効率化と低コスト化を図ることが不可欠です。

 

会計事務所の業務効率化の例

 

私は公認会計士兼税理士として会計事務所を経営していますが、事務所では新しいツールを導入して業務の効率化と低コスト化にいち早く取り組んでいます。

 

まずクラウド会計を導入し、インターネットバンキングの入出金取引が生じると自動で会計処理が行われるようにすることで入力作業を大幅に減らしました。

 

また、顧問先とは決算後報告や重要な相談では直接お会いしますが、特に大きな報告事項がない定例の打合せはスカイプやフェイスブックなどのビデオ通話で行います。こうする前は顧問先への移動に時間を要しましたが、今は移動時間を削減できました。

 

また、顧問先の社長、経理担当者、弊社の担当者でチャットワークのグループを作って情報を共有することで、コミュニケーションに要する時間も減らすことができました。

 

そのため、弊社では「①会計システムはクラウド会計」「②定例の打合せはビデオ通話」「③基本的な連絡手段はチャットワーク」という条件で顧問契約を結んでいます。この条件で顧問契約がとれるのかと思われるかもしれませんが、クラウド会計のメリットを理解していただくと、「ぜひ、クラウド会計にしたい」と興味を持たれ、定例の打合せはビデオ通話くらいがちょうどいいという方も少なくありません。チャットワークの経験がない方でも、導入支援を丁寧に行えばすぐに連絡が取り合えるようになります。

 

このように、「来た仕事はとにかく受ける」というスタンスではなく、業務量と報酬額の費用対効果が高くなる顧問先との契約を増やすことを重視しています。

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経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事

経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事

藤田 耕司

日本能率協会マネジメントセンター

AIの利用が広がるにつれ、多くの士業が「定型的で単純な手続き業務はAIに取って代わられかねない」と危機感を強めています。 起業して新事業を始めたり、いち早くAIを取り入れたりするなど、業務の見直しに取り組む動きも出始…

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