いま、士業は過渡期を迎えようとしています。「AIに士業の仕事が奪われる」――。そんな言葉も目にするようになりました。しかし、士業のすべてなくなるわけではなく、人間にしかできない仕事がまだまだあります。AIやITなどの技術革新が続くなか、士業の仕事に付加価値をつけ、どのように仕事を獲得していけばいいのか税理士、公認会計士、心理カウンセラーとして活躍する著者が明らかにします。本連載は藤田耕司著『経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)から一部を抜粋し、再編集したものです。

経営参謀として顧客の経営にどう関与するか

経営者は常に経営課題を抱えている

 

質問力と共感力を発揮し、お客様の新たな課題やより深い課題が把握できると、お客様のニーズに合った、成約率の高いコンサルティングメニューが提案できるようになります。また、企業向けに業務を行う場合は、さらに深く課題を掘り下げると、多くの場合、経営課題に行き着きます。ほとんどの経営者は絶えず何らかの経営課題を抱えています。そして、その経営課題の解決方法や関連する知識、新たな視点などを相談できる相手を求めています。ここに経営参謀へのニーズが存在します。

 

また、今後、事業承継によって経営の経験が少ない後継者が社長に就任するケースが一斉に増えることが予想されるため、経営参謀に対するニーズもより高まっていくと考えられます。

 

お客様の新たな課題やより深い課題が把握できると、お客様のニーズに合った、成約率の高いコンサルティングメニューが提案できるようになるという。(※写真はイメージです/PIXTA)
お客様のより深い課題が把握できると、お客様のニーズに合った、成約率の高いコンサルティングメニューが提案できるようになるという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

経営者の悩みについて詳しくなる

 

とはいえ経営課題の種類は多岐にわたるため、すべての経営課題に関して相談に乗れる経営参謀になることは決して簡単なことではありません。そこでまずは士業としての専門分野に関連する経営課題を扱う経営参謀をめざすことをお薦めします。いくら経営経験が豊富な経営者であっても、税務、会計、法律、労務、知財など、士業の専門分野に関する知識や経験には乏しかったりするため、そういった「守り」の分野を軸に経営参謀として関わることで一定の付加価値を発揮することができます。

 

そのうえで経営参謀として業務を獲得するためには、まず「経営の相談をされる存在」になる必要があります。そのためには質問力と共感力に加えて、「経営者の悩みに詳しい」「経営課題の解決につながる情報を幅広く持つ」ということが必要になります。

 

経営者から「この人には経営の相談をしてもわからないだろう」と思われていれば、そもそも経営の相談はされません。普段から経営者に多い悩みに触れるなどして、経営者から「この人は経営に詳しいな」と思われると、少しずつ相談されるようになります。ご参考までに、私がよく経営者から相談を受ける悩みをご紹介します。

実際に経営者は何に悩んでいるのか?

人や組織に関する悩み

 

・部下のモチベーションが低く、仕事に消極的な指示待ち人間が多い
・部下の効果的な教育の方法がわからず、いつまで経っても部下が成長しない
・仕事はできるが組織の統率を乱す部下がいる
・先代からの経営幹部や古株社員が言うことを聞かない
・部下の叱り方がわからない。嫌われたくないので叱ることができない
・組織のガンになっている従業員を辞めさせる方法がわからない
・人手不足だが、募集しても応募がない。よい人材が獲得できない
・採用で人を見極めるポイントがわからない
・従業員の離職率が高い。採用してもすぐ辞めるので、多額の採用コストがかかる
・ゆとり世代や悟り世代の扱い方がわからない
・適正な給料の決め方や昇給のさせ方がわからない
・人事評価制度の作り方や評価の仕方がわからない
・後継者やリーダー、右腕が育たず、結局自分ばかりが忙しい
・先代社長が口を挟んで、社内の指揮命令系統が2つになっている
・支店や支社が互いに敵対意識を持ってしまって統率が難しい
・経営理念やビジョン、戦略の作り方がわからない

 

営業やマーケティングに関する悩み

 

・新規顧客の開拓が難しく、売上が伸び悩んでいる
・魅力的な提案の仕方、プレゼンの仕方がわからず、成約率が低い
・これまでのビジネスモデルが古くなり、収益が下がってきた
・同業他社との明確な差別化のポイントがない
・単発の取引で終わり、継続的な収入がない。顧客のリピート率が低い
・部下に営業力をつけさせたいが、営業の教え方がわからない
・ウェブ集客がうまくいかない。よいウェブ制作業者が見つからない
・業務提携の進め方がわからない。業務提携はしたものの有効に機能していない
・顧客を紹介してもらえない。どうしたら紹介してもらえるのかがわからない
・売上の大半を一人の営業マンに依存している
・売上の大半を一社の得意先に依存している

 

その他の悩み

 

・資金繰りが苦しい。売上は伸びているのに利益が出ない
・利益は出ているのに預金残高が減っていく
・借り入れ方法や事業計画の作成方法がわからない。銀行との付き合い方がわからない
・不安や心配で頭がいっぱいで夜も眠れない。家族の問題で経営に集中できない
・先代社長が株式の譲渡に応じず、十分な割合の株式を保有できていない
・事業承継、相続の際に兄弟ともめて、それが経営に支障をきたしている
・海外進出したいが、やり方がわからない。海外進出のための伝手がない

悩みの解決策を提案する経営コンサルティング

経営課題を把握することが経営参謀への第一歩

 

「果たして自分に経営参謀なんてできるのだろうか?」

 

そう思われる方も少なくないでしょう。私もかつてはそう思っていました。学生時代から経営コンサルタントに憧れていましたが、いわゆる戦略系のコンサルティングファームに就職しないと経営コンサルタントにはなれないと思っていました。

 

そんな私が経営コンサルティングの仕事を始めるきっかけとなったのは、交流会で知り合った経営者にある質問をするようにしたことです。

 

それは、「今の事業を今後どうしていきたいですか?」「そのために解決しなければならない課題は何ですか?」というものでした。その後、多くの経営者に同様の質問をしていて気づいたのは、「業種や業態、規模は違っても、経営者は同じような課題を抱えている」ということでした。そしてその課題がなぜ生じるのかについて心理学や感情の性質をもとに分析したうえで解決策を提案する経営コンサルティングを行うようになりました。

 

このように、まずは経営者がどのような課題を抱えているかを把握し、何らかの支援ができるようになれば、経営参謀への第一歩を踏み出せます。

 

経営課題を把握する場合、まずはご自身の士業としての専門分野に関するものから始め、その課題に関連させて「今後会社をどうしていきたいですか?」「そのために解決すべき課題は何ですか?」という経営課題に踏み込む質問へとつなげるアプローチから始めるのがよいでしょう。

 

ただ、経営課題に踏み込んだ質問をすると専門分野以外の課題も当然出てきます。それまでは関心を持たなかった課題でも、経営参謀の自覚ができると「自分の専門外」といっていられません。その分野の課題や解決策について関心を持つようになり、専門家に話を聴く、本を読む、セミナーを受けるといった方法で学び始め、扱える経営課題の幅が広がり、それが経営参謀としての能力に磨きをかけていくことになります。

 

藤田耕司
一般社団法人日本経営心理士協会代表理事
FSGマネジメント株式会社代表取締役
FSG税理士事務所代表
公認会計士、税理士、心理カウンセラー

 

 

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経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事

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藤田 耕司

日本能率協会マネジメントセンター

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