こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

オードリー・タンはなぜ人の話に耳を傾けるか

他人の話を聞くことによって新たな視点が獲得できる

 

私は中学校を中退する前の時期に、烏来(台北南部にある山地)にあるタイヤル族の集落に滞在していたことがあります。タイヤル族は台湾の先住民ですが、彼らから見ると、平地に住む台湾人である私と一緒に実験学校を行っているようなものだったと思います。

 

タイヤル族は私に、「平地に住む人たちは、先住民にも教育が必要だと言うけれど、自然の資源を無節制に使っている彼らにこそ教育が必要なのではないか。それでこそより優れた成果が得られるのではないか」と言いました。私は彼らの考えから多くのことをインスパイアされました。これは実に貴重な体験でした。

 

オードリー・タン 台湾デジタル担当政務委員(閣僚)
オードリー・タン 台湾デジタル担当政務委員(閣僚)

 

同じように、ITを高齢者の身近なものにするためには、もっと高齢者に声をかけて議論する必要があると思います。私の事務所には、いつも額装書画普及研究会の友人たちが来ますが、みんな七十代、八十代、九十代の人たちです。彼らが私たちに教えてくれるのは、「エレベーターの速度を遅めにする」とか「車椅子や松葉杖、歩行器で歩道橋を上がる際の手すりの高さを考えなくてはいけない」といったようなことです。座って議論ばかりしていても見えないこと、わからないことをたくさん教えてもらいました。

 

彼らから「こうすればもっと使いやすくなる」と言われれば、私はその助言を受けてすぐにシステムを調整するようにしています。新型コロナウイルス対策の中でも、「視覚障がい者にはマスク購入の方法が難しい」という声があったので、即座に購入システムを改善したこともありました。

 

私は他の人の話を聞くことが好きです。それは純粋な興味からきています。2020年、亡くなった李登輝元総統が、台湾の黒毛和牛やヨーロッパの牛を分析して、台湾でどう育てていくのかについて関心を持っていたのと同じく、私が政治的問題とは離れた事柄に関心を寄せるのは、単純な興味から出てくるものです。

 

他人の話を聞くことへの興味は大きく二つあります。

 

一つは、「自分自身の生活という角度から物事を見る」という制限を取り払えることです。同じ世界であっても、異なる角度から見ることで、自分自身の視点の限界を超越することができます。

 

二つ目は、相手の個人的な経験や背景から述べられたことを通じて、「世界はこのような視点でも解釈できると理解できる」ことです。相手が経験したことが将来自分にも起きたとき、私は相手とはまた違う方法を選択するかもしれません。つまり、未来を学習することができるのです。相手の経験を知ることから自分の視点を学ぶことで、未来に同じようなことが起きたら、きっと自分なりの新しい話し方ができるでしょう。

 

主にこの二つの点が、私にとって他人の話を聞くことへの興味であり、面白く思う点です。

 

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オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

オードリー・タン

プレジデント社

2020年に全世界を襲った新型コロナウイルス(COVID‐19)の封じ込めに、成功した台湾。その中心的な役割を担い、2020年新型コロナウイルス禍においてマスク在庫管理システムを構築、台湾での感染拡大防止に大きな貢献を果たす。…

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