「青銀共創」がイノベーションを生む理由
年齢の壁を越えて若者と高齢者が共同でクリエイトする「青銀共創」
先ほど述べたような新たな視点の獲得がイノベーションへとつながります。たとえば、最近は高齢者や障がい者を対象にしたITを用いた機器が多く出てきています。歩行器のようなものもありますし、日本では高齢者用のパワードスーツまで登場したと聞いています。
「背中が曲がってしまって重いものを持ち歩けない」人が、パワードスーツのような製品を装着することによって、重いものを持ち運べるようになれば、非常に便利です。また、ベッドに寝ているときに睡眠が浅くて寝つけない人には、ITの活用で枕やベッドに睡眠状態を検知して角度を調整するなどの知能を持たせることもできるようになるでしょう。
そう考えると、ITは高齢者の日常生活の向上に大きく貢献していることになります。身体は衰えても知能や精神がまだしっかりしている人は、こうした機器を用いることで、引き続き社会に積極的に参加できるようになるでしょう。
私がいつも言っていることですが、高齢者でも社会に貢献できることは非常にたくさんあるのです。私は小さい頃、身体が弱かったので、自由にどこへも行くことができませんでした。私はその不便な障がいを手術で取り除くしかなかったのです。しかし、ITやデジタル技術の進んだ今なら、それらを利用することで、多少体の自由がきかなくなった高齢者でもまだまだ社会に貢献できると思うのです。
最近、日本のメディアから取材を受ける機会が非常に増えました。よく聞かれる質問としてあるのが「日本のIT大臣(注 2019年9月の第四次安倍第二次改造内閣で就任した竹本直一氏のこと)は七十八歳だけれども、どう思うか」です。七十八歳といえば、私の父と同世代ですが、年配のIT大臣は決して悪いものではないと思います。
現在(2020年10月現在)の行政院長の蘇貞昌氏も七十三歳と決して若くはありません。でも、彼に何かを説明したとき「もう一度言ってほしい」と聞き返されたことはありません。頭は非常にクリアです。そういう人を身近に知っているので、私は年齢がお互いのコミュニケーションを阻むとは考えていません。
専門的な能力を持った人が縦方向の仕事をすることは、理に適っていると思いますが、本来必要なのは、各年齢層の人間が、私が提供しているような横の連携とコミュニケーションを図る仕事をすることだからです。
台湾では「青銀共創」という試みが盛んです。これは青年(青)と年配者(銀)が共同でクリエイトしてイノベーションを行っていくものです。要は、年配者と若い人がお互いに学び合うのです。年配者は若者から、「今のデジタル社会と、どうコミュニケーションをとっていけばいいか」を学び、若者は年配者の知恵や経験を学びます。私のいるラボ(社会創新実験センター)にも、そうした活動を行っている団体が入っています。