こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

人間とAIは共に成長していくという考え

デジタル社会の発展にはインクルージョンの力が欠かせない

 

私はブルーカラーだからといって創造性に欠けているとはまったく思いません。むしろ逆で、その土地の状況に合わせて仕事のやり方を変えたり、地震や自然災害などを考慮して耐震構造を作るなど、むしろ創造力を必要とされる部分を数多く担っていると考えています。先進的な機械が導入されれば、オートメーション化できる仕事もたくさんあるでしょうが、一方で、レンガ作りの仕事は創造性がなければ務まりません。

 

簡単な例を挙げましょう。作物に肥料や農薬を散布する仕事は、昔から最も機械化が進んだ分野です。最近ではドローンやロボットがそれらを支援しています。ただ、「何を植えたいのか」「どういう栽培方法を目指しているのか」「自然農法・有機農法・環境に配慮した農業をするのかどうか」などは価値の選択であり、創造性を持つ農家の人たちでなければ考えることができません。

 

労働者も同様です。面倒な仕事で、機械化が可能であり、結果も人が行うのと同じであるのであれば、すでに機械に任せてしまっていることは多いでしょう。工事現場で重い建材を動かすことも、身につけるだけで物を運ぶ能力が向上するパワードスーツを使うようになっています。しかし、これはある日突然AIが現れて実現したわけではないでしょう。

 

「重い建材を運ぶのは非常に疲れるし、不快だ」という認識があったため、「なんとか機械を使って人間の仕事を助けることはできないだろうか」という考えが浮かんだと思われます。その結果、AIを使ったパワードスーツのような便利な道具が生まれてきたわけです。

 

このような発想は、どんな状況の中でも可能になるのではないでしょうか。こうしたプロセスを経て、人間とAIは互いに進んでいくのだと思います。それは否定する必要もないですし、「人間の仕事をAIが奪ってしまう」という話でもありません。AIの補助を受けて人間の仕事がより高いレベルに進んでいくということに他なりません。

 

私はデジタルから遠い人たちがいつかいなくなるとは思っていません。「デジタルを学ばないと時代に遅れてしまうよ」という態度は絶対にとりたくなく、その姿勢をずっと堅持していました。それはデジタル担当政務委員になった今も同じです。そのため、あらゆる部会が、私のこの考え方をプログラム開発の際の参考にしてくれています。

 

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オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

オードリー・タン

プレジデント社

2020年に全世界を襲った新型コロナウイルス(COVID‐19)の封じ込めに、成功した台湾。その中心的な役割を担い、2020年新型コロナウイルス禍においてマスク在庫管理システムを構築、台湾での感染拡大防止に大きな貢献を果たす。…

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