「介護の沙汰も金次第」お金があれば解決できる
多くのケースでは「そんな散財しないで、今の家で生活をしていればいいじゃないか」と言って反対するのです。そういうわけで、高齢者が自分の判断で、進んで入居を決断する老人ホームは、おしなべて高級老人ホームなのです。入居金1億円なんていう老人ホームもけっして珍しくありません。
このぐらいのお金を、ポンッと出せるような親でなければ、子供らから同意が取れないからです。子供の立場からすると、1億円ぐらい、総資産や所得から考えた場合〝安いものだ〟という感覚です。
逆に、強制的に老人ホーム送りになっている親の子供らは、どういう状態にあるのでしょうか? よくある話は、親の認知症状が悪化し、社会に迷惑をかけるような事件を何回も起こしているとか、体が不自由になって自分の下の始末ができなくなったというパターンで、自宅に置いておくことができなくなるケースです。
さらに、始末が悪いのは、親本人は、気にするどころか、どこ吹く風なので、子世代にとっては、余計、苛立ちます。早く、親を老人ホームに入れないと、自分たちの生活がままならない、という気持ちです。
子供が結婚している場合は、夫婦間の個別事情が加わりますから始末が悪いということです。
国は、介護保険サービスを充実させ、可能な限り、在宅で高齢者が生活の継続ができるように考えていますが、現実に沿ったサービスになっているとは、とても言えません。
親の資産が潤沢にあれば、早期に介護施設に入居させて、楽になることもできますが、そうではないため、現実は、ぎりぎりまで自宅で何とかした上で、親の年金額内で賄うことができそうな老人ホームを探します。したがって、今の老人ホームの多くのニーズは、とにかく“安いホーム”ということなのです。これが多くの方の現実なのです。
私は、長年、老人ホーム業界で仕事をしています。そして、これらの現象をたくさん見てきました。その私が出した結論は、老人ホームの話の中心にあるのは、介護ケアの話ではなく、「家族の話である」ということです。大袈裟に言うと、自分の老後は、自分の子供をどう育てるか、どう教育(仕込む)するかがすべてだと思います。
「介護の沙汰も金次第」。私は、何度もこのことを繰り返し主張しています。お金があれば、ある程度のことは、解決することができるからです。
しかし、現実的な視点で考えた場合、多くの人たちが、そうたやすく多額のお金を貯めることも、手に入れることもできません。だとすると、可能性の話でいうなら、仲の良い家族を作ることのほうが現実的なのかもしれません。
本音で、なんでも言い合うことができる家族がいること。もう、手遅れだ! という声が聞こえてきそうですが、普通の人が、長生き社会の中で、老人介護と対峙していくためには、仲の良い家族を持つということが、一番良い方法なのだと思います。
こう言うと、俺は生涯独身だ! という声が聞こえてきますが、そういう方にも、兄弟や友人、知人など、仲間はいるのではないでしょうか? さらに、多少資産があれば、老人ホームで「疑似家族」も持てます、と言いたいのです。
どうか本連載が、老人ホーム入居という動機を通して、「家族とは何か」「親とは何か」「子とは何か」を考えるきっかけになってくれることを願ってやみません。
小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役