解説:そもそも贈与する側の「認識」がないと不成立
Aさんの妻は嘘をついているという点で当然どうしようもないのですが、Aさんも妻に任せきりでしたし、夫婦のコミュニケーション不足という側面も否めません。
また、妹の結婚式のご祝儀が5,000円だったというエピソードが象徴していますが、Aさんは妻のことを「他の人とは感覚が違うかも」と少なくとも気づいていたわけですから、重要なことはAさん自身で管理しておくべきでした。しかも、この話はAさんの直系の血族のことであり、Aさんの妻は相続人ではありません。
「フォールスコンセンサス効果」という言葉がありますが、人は自分が「普通」「当たり前」と思うことは、他人も「普通」「当たり前」と感じていると思い込む傾向があります。つまり、自分の考えが常に多数派であると思い込んでしまうんです。
いくら夫婦といっても、何でも以心伝心というわけにもいきませんから、確認すべきところはちゃんと確認して、コミュニケーションを取らなければなりません。
また、税金面や法務面の問題点が2つあります。
1つ目は、名義財産の問題。母親のお金をAさんが住んでいる家のローンの返済などに充てることは、人のお金を勝手に使っていることになるので、母親が認識していなかったのであれば、贈与は設立しません。
贈与は民法上も「契約行為」であり、贈与者側と受贈者側の合意があって初めて成立します。もし、母親の預金から引き出されたお金が、Aさんの妻名義の銀行口座に入れていたとしても、税制上は「名義財産」としてAさんの母親の相続財産として認定されます。
また、引き出されたお金は、民法としても「遺産分割協議」の対象になります。その際、たとえお金の行方がわからなくなってしまっている場合でも、返してもらうべきお金として貸付・未収財産となるので、いずれにしても母親の相続財産となります。
つまり、4,000万円をAさんの奥様が使ってしまっていたとしたら、本来はAさんの母親の相続財産が他に4,000万円あったわけで、Aさんの妹は、この相続財産の1/2である2,000万円の権利を主張できます。
税金だけでなく親族間においても大きな争いの元になりますので、くれぐれも気をつけなければなりません。
2つ目の問題は、Aさん夫婦の自宅の問題です。先ほどのケースのなかで、Aさんの妻は『この家の半分はお義母さんのもの』といっていましたが、実際の登記上の名義がどうなっているかは、文章からは読み取れません。
いくら夫婦や親子の関係であっても、「財産の権利」は別々です。たとえば、お金は夫婦のどちらかが出したにもかかわらず名義を2人に分けてしまったり、もしくはお金を親に出してもらったにもかかわらず名義が自分であれば、これは「贈与」にあたります。
また、「親子間の住宅資金の贈与」については税制上の非課税規定がありますが、期限内に申告をしていないと、この非課税の枠を使うことができません。贈与のタイミングにもよりますが、最大3,000万円の非課税枠が使えた可能性があったので、非常にもったいないです。
■まとめ
相続の問題は、親族間で利益相反の関係になるので、適切なコミュニケーションを図ることが困難なケースもあります。また、相続に絡む法律を正確に理解することも難しいです。そのため、まずは、専門家に相談して適切な法律の知識を理解することから始めましょう。
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】
■恐ろしい…銀行が「100万円を定期預金しませんか」と言うワケ
■47都道府県「NHK受信料不払いランキング」東京・大阪・沖縄がワーストを爆走