日本で亡くなる人は、年間130万人。亡くなる人の数だけ相続がありますが、お金が絡む話にはトラブルはつきものです。今回は、嫁が介護施設に入居している義母の預金通帳からお金を引き出したことで起きたトラブル事例を、山田典正税理士が解説します。

思ったより母親の遺産額が少ない…妹の疑問に対し嫁は

思わぬ問題が発覚したのは、母が亡くなった直後のことです。葬儀も無事に終わり、母の遺産分割について話し合いの席が設けられました。

 

集まったのは、Aさん・Aさんの妻・Aさんの妹・Aさんの義弟(妹の夫)の4人です。そして、場の主導権を握ったのは、母の通帳を管理していた妻でした。

 

Aさんの妻「お母さんの遺産は、実家と貯金だけ。金額はこの通帳にある通りよ」

 

妹「え、でもこれ、おかしくない?」

 

机の上には2冊の預金通帳が置かれました。1冊には1,000万円ほどの金額が記されていますが、もう1冊の預金はほぼゼロ。妹が疑問の声を上げると、妻は平然と話しはじめます。

 

Aさんの妻「ああ、それは貯金用。2冊目は生活費用だったの。それで減っちゃってるみたいなのよ」

 

Aさん「そういう話はちゃんと初めにいってくれないと、皆が混乱するだろう」

 

義弟「そうなんですね……でも少し気になることがあるんです。生活費用にしても、こんなに頻繁に大金を引き出す必要はないですよね?」

 

義弟が『生活費用』の通帳をぱらぱらとめくりながら言葉を続けます。誘われるようにAさんも覗き込めば、たしかに何度も引き出した跡がありました。それも毎回数十万円ずつという、とても放ってはおけない額です。

 

Aさん「こんなにも……全部足したら、えっと(計算中)……4,000万円以上じゃないか! 何にそんな使うことがあるんだ!?」

 

Aさんの妻「お義母さんの通帳なんだから、お義母さんが自分で使ったに決まってるじゃない」

 

Aさん「だけど、母さんは施設に入ってたんだぞ! 頻繁にこんな大金、使い道がないだろ!」

 

妹夫婦「ちょ、ちょっと落ち着いて!」

 

妻は悪びれる様子もない…(※写真はイメージです/PIXTA)
妻は悪びれる様子もない…(※写真はイメージです/PIXTA)

 

その後何度も問い詰めるも、妻は「知らない」の一点張りだったそうです。結局どうしようもないと、自宅は売却したうえで遺産は等分することになりました。


しかし関係者全員が多忙だったとはいえ、早急に決着させずもっと吟味すべきだったとAさんは後悔の念を吐き出します。

 

「考えてみれば、施設の利用料は引き落としになっていましたし、母さんの通帳からそれ以上のお金が出ていくわけないんです」

 

そのあと税務調査が入り、妻による母の貯金の使い込みが明るみになります。妻がAさんの母の通帳から勝手に引き出し、住宅ローンの返済に費やしていたのです。

 

Aさんの妻「だって、この家(=Aさん夫婦が住んでいる家)の半分は、お義母さんのものなんだから、おかしいことなんてないじゃない」

 

この段階になって、母から資金提供を受けて家を購入したにもかかわらず、何も申告していなかったことが判明。Aさんは妻に任せっきりで、母から贈与を受けたことは知っていましたが、税の申告をしていなかったことは知らなかったといいます。しかし時すでに遅し。言い逃れのできない状況となってしまいました。

 

「地獄ですよ……。いきなり、こんなに税金を払わないといけなくなるなんて。きちんと見張っていなかった僕も、自業自得かもしれませんが、後悔してもしきれませんよ

 

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※本記事は、編集部に届いた相続に関する経験談をもとに構成しています。個人情報保護の観点で、家族構成や居住地などを変えています。

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