日本で亡くなる人は、年間130万人。亡くなる人の数だけ相続がありますが、お金が絡む話にはトラブルはつきものです。今回は遺産相続の話し合いに相続人ではない人物が参加する、という事例を、山田典正税理士が解説します。

近所でも評判「ほとけ」の一家。しかし…

[登場人物]
・父…一般企業に勤務。余剰資金で投資をしていたところ大成功。癌により永逝
・母/長男(Aさん)/長女…堅実を絵にかいたような性格
・長女の夫…自分の父はすでに亡くなっていて、相続を経験

【父の遺産】
総額7~8億円はくだらない
・実家
・マンションが8室
・株式、債券、金、貯金

 

堅実で穏やかな父母と、そんな両親に愛情を注がれて育った兄妹。近所でも仲の良い家族として有名でした。揉めごととは無縁に見えたこの一家ですが、部外者の「たった一言」で険悪な雰囲気になってしまうのです。

 

「あんなに声を荒げたのは生まれてはじめてでしたよ」

 

Aさん(長男)は苦虫を嚙み潰したような表情で語ります。

 

「今も、思い出してはらわたが煮えくり返りそうです。まさかあんなことをいう人だったなんて思ってもみませんでした」

 

落ち着いた性格で、親しい友人や知人から「ほとけ」とまで呼び慕われるAさん。彼が怒りを露わにした原因は、長女の夫にありました。

 

まったく、あいつは…(※写真はイメージです/PIXTA)
まったく、あいつは…(※写真はイメージです/PIXTA)

質素な生活とは裏腹な莫大な遺産に、困惑する家族

「贅沢な暮らしがしたいわけじゃないんだ。ただ、私になにかあっても家族に不自由な思いをさせたくなくて」

 

そう、Aさんの父はいつも優しく笑っていたそうです。一般企業に会社員として勤めつつ、余剰資金ではじめた投資が大成功したのだといいます。

 

しかし、それを周囲に自慢したり驕ったりすることなく、父は質素な生活を続けました。近所の人々も、Aさん一家がお金持ちであることにまったく気付かなかったそうです。

 

「欲をかきすぎるとろくなことがない。家族と幸せに暮らしていければそれでいい」

 

そんな父の考えの元で過ごす日々は、本当に穏やかだったといいます。Aさんも長女もすくすくと育ち、やがて独立してそれぞれ家庭を築くようになります。実家を出てからも、折を見て電話をしたり手紙を出したりと交流が続いていました。

 

しかし、そんな毎日は突然終わりを告げます。父に癌が見つかったのです。そのうえ転移が進んでおり、すでに末期だということが伝えられました。

 

Aさんを含め、母も長女も全員が大きなショックを受けました。しかしそのなかでも父は落ち着いて、普段通りに笑っていたそうです。取り乱すことなく自らの死を受け止める父の姿に、家族もできるだけ穏やかに送り出したい、と思えるようになりました。

 

多くの人に慕われていた父の葬儀は、しめやかながらも温かく営まれました。納骨も終わり、これでまた穏やかな日々が戻ってくる…誰もがそう思っていたなか、予想外の波乱が起きてしまったのです。

 

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※本記事は、編集部に届いた相続に関する経験談をもとに構成しています。個人情報保護の観点で、家族構成や居住地などを変えています。

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