本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「宅森昭吉のエコノミックレポート」の『経済指標解説』を転載したものです。

 

鉱工業生産指数・前月比▲1.6%、11月・12月と2ヵ月連続前月比低下

経済産業省の生産指数・基調判断は「生産は持ち直している」で据え置き

1月分生産予測指数・前月比は+8.9%上昇。電子部品デバイス等寄与

12月分一致CI前月差下降、基調判断「下げ止まり」。1月分、上昇なら上方修正

 

 

(鉱工業生産)

 

●鉱工業生産指数・12月分速報値・前月比は▲1.6%と、2ヵ月連続低下した。前月比▲41.4%となったボイラ・原動機などが低下要因になった。季節調整値の水準は93.2で、20年3月の95.8に届かない水準にある。前年同月比は▲3.2%で15ヵ月連続の低下となったが、マイナス幅は9月分~12月分は4ヵ月連続1ケタになった。

 

●12月分鉱工業生産指数では、全体15業種のうち、5業種が前月比上昇、10業種が前月比低下。無機・有機化学工業、その他工業、電子部品・デバイス工業等は上昇に寄与したが、汎用・業務用機械工業、自動車工業、電気・情報通信機械工業等が低下に寄与した。

 

●経済産業省の基調判断は20年4月分・5月分で「総じてみれば、生産は急速に低下している」だったが、6月分で、「生産は下げ止まり、持ち直しの動きがみられる」に上方修正された。7月分では、下げ止まりが外れ、「生産は持ち直しの動きがみられる」となった。8月分で、「生産は持ち直している」に上方修正された。その後、今回の12月分まで、「生産は持ち直している」で据え置きになっている。

 

●先月発表された製造工業予測指数12月分は前月比▲1.1%下降する見込みであった。過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、12月分の前月比は先行き試算値最頻値で▲2.3%の下降、90%の確率に収まる範囲は▲4.0%~▲0.6%の下降の見込みであった。実際には、鉱工業生産指数の前月比が▲1.6%下降になったわけだが、これは製造工業予測指数を下回ったが、試算値の範囲内にあり、最頻値を上回る伸び率である。

 

●12月分速報値の鉱工業出荷指数は、前月比▲1.6%と2ヵ月連続の低下になった。前年同月比は▲3.4%で15ヵ月連続の低下となった。

 

●12月分速報値の鉱工業在庫指数は、前月比+1.1%と9ヵ月ぶりの上昇になった。前年同月比は▲8.4%と8ヵ月連続の低下となった。

 

●12月分速報値の鉱工業在庫率指数は、前月比+2.0%で、7ヵ月ぶりの上昇になった。前年同月比は▲3.1%と3ヵ月連続の低下となった。

 

●大きな動きをチェックするために、鉱工業全体で縦軸に在庫の前年比を、横軸に出荷の前年比をとった在庫サイクル図をつくると、17年10~12月期以降、45度線を上回って推移し、概ね「在庫積み上がり局面」が続いていた。19年10~12月期、出荷の前年同期比が▲6.5%、在庫が同+1.2%、20年1~3月期、出荷の前年同期比が▲5.2%、在庫が同+2.9%と、どちらも「在庫調整局面」であった。20年4~6月期は、出荷の前年同月比が▲19.9%、在庫が同▲3.4%と、出荷は大幅に減少したものの在庫調整がさらに進んだ。20年7~9月期は、出荷の前年同期比が▲13.5%、在庫が同▲5.7%と、引き続き「在庫調整局面」の状態にあったが、10~12月分速報値では出荷の前年同月比が▲3.4%、在庫が同▲8.4%と、20年4~6月期以降在庫が減少する中で、在庫調整がかなり進んで「意図せざる在庫減局面」に入った。

 

 

●鉱工業生産指数の先行きを製造工業予測指数でみると1月分は電子部品・デバイス工業などが寄与し前月比+8.9%の大幅上昇、2月分は前月比▲0.3%の下降の見込みである。過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、1月分の前月比は先行き試算値最頻値で+4.4%になる見込みである。90%の確率に収まる範囲は+2.7%~+6.1%の上昇になっている。

 

●先行きの鉱工業生産指数、1月分を先行き試算値最頻値前月比(+4.4%)、2月分を製造工業予測指数前月比(▲0.3%)、3月分を前月比横這いで延長すると、1~3月期の前期比は+2.9%の上昇になる。また1月分・2月分を製造工業予測指数前月比(+8.9%、▲0.3%)、3月分を前月比横這いで延長すると、1~3月期の前期比は+7.3%の上昇になる。1~3月期は3四半期連続の前期比上昇が期待される状況だ。

 

(12月分の景気動向指数・速報値予測)

 

●12月分の景気動向指数・速報値では、先行CIが前月差▲1.5程度の下降になると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列では、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数の3系列が前月差プラスに、最終需要財在庫率指数(逆サイクル)、鉱工業生産財在庫率指数(逆サイクル)、新規求人数、新設住宅着工床面積、消費者態度指数、中小企業売上げ見通しDIの6系列が前月差マイナスになると予測した。

 

●12月分の一致CIは前月差▲1.2程度の下降になると予測する。速報値からデータが利用可能な8系列では、商業販売額指数・卸売業1系列が前月差プラスに、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、輸出数量指数の6系列が前月差マイナス、有効求人倍率1系列が前月差寄与ゼロになると予測した。

 

●一致CIを使った景気の基調判断は12月分でも、11月分までと同様「下げ止まり」にとどまるとみられる。事後的に判定される景気の谷が、それ以前の数か月にあった可能性が高いことを示す「上方への局面変化」への上方修正は見送られよう。一致CIの7ヵ月後方移動平均(前月差)の符号がプラスでプラス幅(1ヵ月、2ヵ月、または3ヵ月の累積)が1標準偏差分以上振幅目安の+0.76以上になるものの、一致CI前月差が下降になるからだ。

 

●なお、製造工業生産予測指数からみて生産指数が前月差上昇が見込まれる1月分で、一致CIが0.1でも上昇になれば、7ヵ月後方移動平均(前月差)は十分条件を満たしているので、景気判断が上方修正されることになろう。

 

●12月分の先行DIは66.7%程度と景気判断の分岐点の50%を上回ると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列中、鉱工業生産財在庫率指数、新規求人数、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの6系列がプラス符号に、最終需要財在庫率指数、新設住宅着工床面積、消費者態度指数の3系列がマイナス符号になると予測した。

 

●12月分の一致DIは87.5%程度と景気判断の分岐点の50%を上回ると予測する。速報値からデータが利用可能な8系列中、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業、有効求人倍率、輸出数量指数の7系列がプラス符号になると、耐久消費財出荷指数1系列がマイナス符号になると予測した。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2020年12月分鉱工業生産指数・速報値について』を参照)。

 

(2021年1月29日)

 

宅森 昭吉

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

理事・チーフエコノミスト

 

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