人生安泰の代名詞・地方公務員…特に「消防士」は抜群
消防士を含む地方公務員は、多くの人がうらやむ安定した収入を得られる職業です。地方公務員の給与水準は、国家公務員と同様に決まります。国家公務員の給与は、国家公務員法第28条によって社会一般の情勢に適応するように随時変更できるとされています。社会一般とは民間企業のことで、国家公務員も地方公務員も民間企業従業員の給与と比較して高くなり過ぎないように調整されているのです。
そして「地方公務員給与実態調査の概要」(総務省)によると2018年度の消防士の平均年収は約622万円(38.2歳)でした。これは地方公務員のなかでも多いほうです。なぜなら、通常の給与に上乗せされる手当が多いから。具体的には「危険作業手当」「不快作業手当」「重勤務作業手当」「非常災害業務手当」「消防業務手当」「救急出動手当」などがあります。これらの支給額は1回当たり数百円程度ですが、毎月の出動手当だけで月々平均10万円近くになります。
一般的に平均収入は東京都がもっとも高く、地方に行けば行くほど低くなります。それゆえ、地方で人気の就職先は、地場で有名な企業、地方銀行、地域のテレビ局、新聞社、そして地方公務員など比較的高収入なところです。
そのなかでもずば抜けて収入が安定し、社会的信用度も高い職業が消防士を含む地方公務員です。おそらく地方で年収600万円を超えていれば、地場の企業で働く人よりもかなり多いはずです。
給与も退職金も減少…「地方公務員は安泰」神話の崩壊
しかし「だから安心!」、そう思っている消防士は、視野を広げるべきです。なぜなら地方公務員の収入は、今後減少していく可能性が非常に高いからです。
そのもっとも大きな原因は、日本の人口減です。国立社会保障・人口問題研究所によると、2015年に約1億2700万人だった日本の人口は、2045年には約1億600万人まで減少する見込みです。
国の経済力は人口にほぼ比例します。昨今、超大国アメリカに迫る勢いを見せる中国は、その代表例でしょう。同国の人口は約14億人で世界一。GDP(国内総生産)は、2010年から2019年の10年間で約2.3倍になっています(約6兆660億ドル→約14兆1400億ドル)。
一方で日本は、同じ10年間で約5兆7000億ドルから約5兆1540億ドルにまでGDPを減らしてしまいました。これから人口が減っていく日本のGDPは、今後さらに下がっていくでしょう。
そして経済が縮小していけば、多くのサラリーマンの給与も下がっていきます。したがって、それに連動する公務員の給与も下がります。そもそも公務員の給与の源泉は税金です。企業活動が停滞し、税収が少なくなれば、公務員の給与も下がると考えるのが妥当でしょう。その傾向は、税収の少ない地方になればなるほど顕著になるはずです。
退職金についても同様のことがいえます。公務員の退職金は、一般的なサラリーマンと比べて多いといわれてきました。実際にそのとおりで、大学・大学院卒サラリーマンの平均退職金額は1983万円(厚生労働省「平成30年(2018年)就労条件総合調査」)に対して、地方公務員は約2213万円と多くなっています。(総務省「地方公務員給与実態調査」〔2019年〕)。
しかし、地方公務員の退職金は年々下がり続けています。2006年度は平均約2803万円も支払われていました。ところがそれ以降はほぼ毎年下がり続け、2019年度は約2213万円になってしまったのです。その差額は約600万円。高級輸入車1台分も老後資金が減ってしまったことになります。
高収入ゆえに「日々の生活はカツカツ」な消防士
今現在の消防士の収入は、確かにほかの業種に比べて多めかもしれません。しかし筆者が見たところ、多くの消防士の方々は、支出も多いと感じています。比較的高級なクルマに乗り、結婚も早めなので20代で住宅ローンを抱えている人も珍しくありません。それらの支払いは安定している職業ゆえにボーナス払いの比重が大きい。ボーナス支給額の9割をローン返済にあてている人ともお会いしたことがあります。
ならば普段の生活に余裕があるかといえば、そうでもないようです。釣りやゴルフなどの趣味にもお金をかけ、生命保険にも複数加入し、飲みに行く機会も多い。さらにパチンコや競馬などのギャンブルが生活の一部になっているケースも多々あります。それゆえ、「日々の生活はカツカツ」という消防士を数多く見てきました。
サラリーマン以上に減っていく「公務員の年金支給額」
「たとえ年収が増えず、退職金が減っても、我々公務員には年金がある!」。そう考える人は多いはずです。「安定雇用」「安定収入」「多めの年金支給額」。これらは公務員になる最大のメリットといわれてきました。
従来、日本の年金制度は大きく分けて3種類ありました。「1.国民年金」(全国民共通)、「2.厚生年金」(サラリーマンだけの上乗せ制度)、「3.共済年金」(公務員だけの上乗せ制度)です。
個人事業主などを含めてすべての国民は国民年金に加入することになっています。そのうえでサラリーマンは厚生年金が、公務員には共済年金が上乗せされていました。
そして公務員に限っては、さらに「職域加算」も上乗せされていたのです。このことで公務員の年金は「3階建て」と呼ばれていました。
したがって、給与や勤続年数などが同条件のサラリーマンと公務員を比べた場合、公務員の年金受給額のほうが多くなる仕組みだったのです。そのため「公務員は優遇されている」という世論が大きくなっていきました。
これを受けて2015年に「職域加算」が廃止され、共済年金は厚生年金に統合されることになりました。つまり、現在の公務員の年金制度は、一般的なサラリーマンとまったく同等なのです。
「3階建ての年金」と「2階建ての年金」…いくら違う?
従来との具体的な違いには、次のようなことがあります。
【保険料率のアップ】
共済年金の保険料率は、厚生年金よりも低く設定されていました。しかし、厚生年金の保険料率(上限18.3%)に統一されました。
【遺族年金の転給制度の廃止】
転給制度とは、遺族年金受給者が亡くなるなどで権利を失った際、ほかに権利がある人がいれば、権利をその人に移行するものです。この制度が廃止されました。
【70歳が加入年齢の上限】
共済年金に加入年齢の上限はありませんでした。しかし、厚生年金は70歳が上限とされています。この制限によって、たとえ働き続けていても70歳になれば年金から脱退しなければならなくなりました。
【障害厚生年金の支給に「保険料納付要件」が追加】
障害厚生年金の支給には、初診日の前日において、次の1と2どちらかの要件を満たす必要があります。
⒈ 初診日の前々月における直近1年間に未納期間がないこと
⒉ 初診日の前々月におけるすべての被保険者期間のうち、3分の2以上が保険料納付済期間または保険料免除期間であること
共済年金にこのような支給要件はありませんでした。
身近な公務員OBが豊かで悠々自適な暮らしをしているように見えるのなら、そのおもな理由は従来の年金制度によるものでしょう。
例えば、在職中のほとんどの期間が3階建ての年金制度だった現在60歳(1960年生まれ)の消防士と、ほとんどが2階建ての年金制度になる現在30歳(1990年生まれ)の消防士の年金受給額をシミュレーションすると次のようになります。
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※公務員として22歳から60歳まで働き、平均年収は500万円とします。
<現在60歳>
支払った年金の合計:1339万9240円
年間の年金受給額:202万3628円
毎月の年金受給額:16万8636円
<現在30歳>
支払った年金の合計:1366万1440円
年間の年金受給額:187万4018円
毎月の年金受給額:15万6168円
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現在30歳の方が26万2200円多く支払っているにもかかわらず、受給額は現在60歳よりも年間14万9610円少なくなります。毎月に換算すると約1万2500円。現在の消防士は先輩たちよりこれだけ少ない生活費で老後生活を送らなければならないのです。
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