収入が安定していて、失業の心配がなく、年金も多い…。いつの時代も「わが子に就いてほしい職業」として挙がる「地方公務員」は、全般的に人生安泰の職種というイメージではないでしょうか。ここでは、とりわけ高収入と言われる「消防士」に着目し、その実態を探ります。

多数の消防士がもっとも不安に感じる「昇進」

私が消防士の方々と話していて、もっとも不安に感じていると思えるのは、昇任に関することです。

 

おそらくほとんどの消防士は入署当初、真面目に任務を行い、試験に合格さえすれば昇任できると思っていたはずです。そして、コツコツとそれを繰り返していれば定年までのキャリアプランが実現し、将来は安泰と考えていたのではないでしょうか。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

ところが現実はまったく異なるケースが多々あるようです。そのおもな理由は、強固に守られている年功序列制度によって、役職者の枠が埋まり、昇進する実力があっても先輩が退職しなければ昇任できないということです。

実力あっても「昇進」は絶望的…強固すぎる年功序列

現在、ほとんどの地域の消防組織では昇任試験を行っています。これは学歴や在職年数に応じて受験資格が得られ、筆記・実技・面接・小論文試験などに合格することで階級が上がっていく制度です。

 

階級は東京消防庁の場合は10段階。「消防士」からスタートし、「消防副士長」「消防士長」「消防司令補」「消防司令」「消防司令長」「消防監」「消防正監」「消防司監」「消防総監」とステップアップしていきます。ただし、ここまで細かく階級が分かれているのは、東京のような大規模な組織だけで、地方によっては5段階くらいのところもあるようです。

 

昇任には昇給も伴います。最初の階級である消防士の場合、年収は地域にもよりますがだいたい300万円前後。それが頂点である消防総監(東京消防庁の場合)になれれば1500万円前後になります。

 

そこまで上り詰めるのは無理でも、せめて現場の最高責任者・大隊長である消防司令を目指したいと考える人が多いようです。消防司令の年収はだいたい600万円前後。これくらいあれば、地方都市であれば贅沢はできませんが家族を十分養っていけるでしょう。

 

ところがです。私が複数の消防士に聞いた話によると、昇任に関してはお先真っ暗だというのです。

 

その理由の多くは、ガチガチの年功序列制度によって先が詰まり、昇任のポストがないということです。

 

とはいえ、昇任試験は学歴や在職年数などの基準さえクリアしていれば誰でも受験可能です。そして、各市町村の消防職員昇任試験規定や消防職員昇任試験規則などによって昇任するハードルは明確になっているはずです。

 

しかし、ある消防士に聞いた話では、上司の勤務評定によっていくら昇任試験の成績が良くても落とされることがあるとのこと。

 

また、別の消防士の地域では、昇任試験に合格すれば階級はアップするものの、給与にそのことは反映されない。したがって、収入はアップしないとのことです。これは階級に対する責任だけ与えられ、その見返りがないということです。それどころか管理職になったことで各種手当が支給されなくなり、逆に収入が減ったという話も聞きます。これでは昇任へのモチベーションは上がらないでしょう。

 

もちろん、これらの例はごくまれだとは思いますが、年々昇任のチャンスは少なくなっていることは事実のようです。

実力派新人を「生意気」「勘違いしている」と酷評し…

通常モチベーションは、実力主義のなかで上がっていきます。頑張って成果を出せば周りから認められ、収入もアップする。それがやる気につながる。しかし、やってもやらなくても昇任や収入アップのスピードが変わらなければモチベーションを維持したくてもなかなか難しいのではないでしょうか。

 

このような年功序列の体制が強固な組織では、実力ある者が逆に潰されることもあり得ます。

 

ある消防士の同期に、ものすごく頭がキレ、体力もずば抜けた人がいたそうです。3日一緒に仕事をすれば、誰でも違いが分かるほどでした。

 

しかし1ヵ月後、この同期に先輩たちから押された烙印は「生意気」。彼は先輩たちに口答えしたわけでも、反抗的な態度を取ったわけでもありません。それでもたった1ヵ月で「まだまだ経験不足なのに生意気だ」「ちょっと勘違いしている」とマイナスのイメージを持たれてしまったのです。

 

年功序列の組織では、「出る杭は打たれる」です。彼はすっかりやる気を失い、消防士になって2年半で転職していきました。

出費過多にならざるを得ない、消防士特有の勤務体制

昇任しにくくなっているとはいえ、消防士は公務員。一般の人から見れば、どのような階級にいても安定した生活はできると考えてしまいます。しかし、そこには消防士ならではの落とし穴が待っています。

 

その落とし穴とは、「休日が多いゆえの出費の多さ」です。現場で働く消防士のほとんどは、2部交代制または3部交代制となっています。前者は当番→非番を繰り返し、一定間隔で週休日が入ります。そして後者は、当番→非番→週休を繰り返す勤務体制です。

 

ここで注目したいのは一般的なサラリーマンよりも休日が多いということです。厳密には当番日は24時間勤務なので働いている時間が少ないとはいえませんが、3部交代制ならば1日働けば2日休み。多いと思われても仕方ないでしょう。

 

そしてこの休みは土日やゴールデンウィークなどとは関係ありません。つまり、一般企業に勤める共働きの妻や友人と休みが合わないということになります。

 

その結果、どうなるのか。ゴルフ、釣りといった趣味やパチンコ、競馬といったギャンブルにお金を費やすケースが多々あります。また、同じ消防士同士での飲み会も増えます。これらの出費がかさむのは、休みが多いゆえでしょう。

 

また、なかには自身のスキルアップのために自腹で研修を受ける人もいます。例えば、ロープを使用した組織的レスキュー活動を行う際に必要となる知識や技術を学ぶといったプログラムです。このような研修の費用はだいたい5~6万円します。昇任(昇給)が期待できなくなった昨今、これらの出費は消防士の生活に重くのしかかっています。

 

 

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    ※本連載は本橋亮氏の著書『なぜ消防士は不動産投資に向いているのか?』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

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