日頃の鍛錬は「スポーツ強豪校の部活」以上にハード
消防士の仕事の多くは、非常に体力を使います。火災現場では防火服を着たうえにしころ付きのヘルメットを被り、酸素呼吸器などの装備を背負います。その総重量は20kg前後。
これだけ重い装備を装着して動き回るだけでも大変なのに、真夏の場合は気温が30度を超えます。暑さに体力・気力とも搾り取られてしまうでしょう。
このような厳しい現場活動に対応するために、日頃の体力作りは欠かせません。階段ダッシュや懸垂、腕立て伏せなど、そのハードさはスポーツ強豪校の部活を凌ぐと聞きます。
さすがに40代、50代の消防士は、しごきのようなトレーニングはしないようですが、現場に出る以上、やはり体力の維持は必須となります。
体形や筋力は「20~50代で大差なし」…驚異の結果
では、実際に40代になっても体力を維持できるのか、を知る資料として東京消防庁の『消防隊員の体力管理に関する研究』(1999年)があります。
これは20代から50代の消防士(ポンプ隊員62人)に対して体力測定と活動能力測定を行い、分析した調査結果です。調査自体は約20年前のものですが、年代による体力差を知るには十分有効でしょう。
まず、それぞれの年代の身体特性を見てください。
●20代…身長:172.4cm/体重:68.0kg/体脂肪率:18.7%
●30代…身長:172.7cm/体重:68.9kg/体脂肪率:18.8%
●40代…身長:170.1cm/体重:67.9kg/体脂肪率:18.9%
●50代…身長:165.3cm/体重:66.5kg/体脂肪率:18.3%
ご覧のとおり体脂肪は、20代から50代までほとんど変わりません。しかも50代が一番低くなっています。
次に体力測定の結果を確認しましょう。
●20代…押力:59.8kg/脚筋力:65.0kg/懸垂:9回/握力:46.3kg/腕立て伏せ:48.0回
●30代…押力:55.3kg/脚筋力:64.6kg/懸垂:6.6回/握力:49.5kg/腕立て伏せ:35.0回
●40代…押力:52.0kg/脚筋力:61.6kg/懸垂:4.2回/握力:47.1kg/腕立て伏せ:33.0回
●50代…押力:42.4kg/脚筋力:56.3kg/懸垂:5.1回/握力:41.5kg/腕立て伏せ:31.0回
こちらも50代の筋力の衰えが若干見られるものの、大きな開きはありません。懸垂に関しては50代が40代を上回っています。やはり皆さんは、いくつになっても相当なトレーニングを積んでいるのでしょう。頭が下がる思いです。
肝心の「消火活動に必要な能力」は…
さて、ここで注目したいのは活動能力です。この調査では、次の消防活動を想定して所要時間を計測し、もっとも短いタイム(2分22秒)を100点、もっとも長いタイム(4分33秒)を0点として得点化しました。
なお、計測時の服装は、火災出動時の服に加えて東消5型空気呼吸器(装備総重量約19kg)を装着しています。
1. ホースカー約240kgを60mえい行する
2. フォグガンと連結送水セット(総重量約11kg)を1階から5階まで搬送する
3. 床を這う姿勢で10m移動する
4. 訓練用人形(約38kg)を屈んだ姿勢のまま片手で引きずり10m移動する
5. 発動発電機(約9kg)を5階から8階の屋上まで搬送する
年代ごとの所要時間と得点は以下になります。
●20代…2分44秒/82.6点
●30代…2分53秒/75.6点
●40代…3分17秒/57.6点
●50代…3分40秒/40.2点
このように40代以上は30代以下に比べて時間がかかっていることが分かります。
活動能力の低下を招く「加齢以外の原因」
体形や筋力は、日頃の鍛錬によって50代になってもある程度維持できます。しかし、実際の現場でもっとも要求されるフットワークは、加齢によってどうしても衰えてしまうようです。
さらに消防士は加齢だけでなく、日頃の生活パターンによって体力を削られるケースもあるようです。
24時間働いて2日休むという勤務体制(3部交代制)の繰り返しは、一般的なパターンではないので、どうしても不規則な生活になりがちです(ほかの勤務体制もあり)。
さらに勤務中は仕事場で寝ることになるので、若い頃は周りに気を使いっぱなしでしょう。ある消防士は「先輩が起きている間は気になって眠れなかった」と言っていました。こうしたことから慢性的な不眠に悩む人も多いようです。
消防士は誰よりもフットワークを要求される職業にもかかわらず、体力は加齢や不規則な生活などによって衰えていきます。特に40歳を過ぎるとそのことを痛感する機会が多いようです。
そのため、ある程度の年齢になると現場を離れてデスクワークに移るケースもあります。しかし、それができるのはほとんどが昇進できた人ではないでしょうか。昇進できない、または現場活動が好きで続けていた人は、体力の低下をきっかけに転職を考えることも多いようです。