投資するにあたって意識すべき重要なポイントに、その人自身の「リスク許容度」があります。投資家自身、はしばしば「リスク選好」と混同しがちですが、その認識の誤りに危険な落とし穴があります。資産運用会社のアライアンス・バーンスタイン株式会社で運用戦略を行う後藤順一郎氏が解説します。

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リスク許容度の判断には「リスク選好」も含まれるが…

リスク許容度は、過去の投資経験だったり、どのくらいの損失まで受け入れられるか、といった質問に対する回答から判断されることが多いと思います。結局、これは「リスクが好きか嫌いか」で判断しているにすぎないのですが、本当にこれだけで投資家のリスク許容度を判断していいのでしょうか?

 

投資家が「リスクを好きか嫌いか」は、リスク許容度ではなく、リスク選好です。もちろん、リスク許容度を判断する際にリスク選好を考慮することは必要ですが、それに加えて、リスクを取れる能力がそもそもあるのか、つまりリスク・キャパシティも考慮する必要があるのです。

 

このリスク・キャパシティを決める主な要因は、人的資本、つまり年齢や収入(職業)になります(『日本人の平均生涯賃金…「2億円超」をどう捉えるべきか?』参照)。また、現在の保有資産や公的年金/企業年金の状況などもリスク・キャパシティに関係してきます。

 

具体的には、収入が安定している公務員と収入が景気に左右される職業ではリスク・キャパシティは異なりますし、老後に手厚い企業年金がある人は、資産運用で失敗してもダメージは小さく、企業年金がない人と比べればリスク・キャパシティは高くなります。

 

このように、投資家の情報をフル活用し、正しくリスク・キャパシティを把握して初めて、正確なリスク許容度が判断できるのです。

損失を怖がる若手投資家に、リスク運用を提案する意味

これを実践に適用するとどうなるのでしょうか?

 

例えば、現役時代から株式投資の経験があり、リスクに慣れているシニア世代の投資家に対して、ハイリスクな運用をそのまま提案するのは、不適切になるかもしれません。

 

なぜなら、このシニアの投資家はリスク選好が高くても、リスク・キャパシティが低い可能性があるからです。この方の場合は、ハイリスクを求めていたとしても、リスク・キャパシティの観点からミドルリスクを勧めるのが適切といえるでしょう。

 

逆に、若者が老後のために資産運用をしたいが損失が怖く、安定性の高い運用をしたいと希望した際、そのまま低リスク運用を提案するのもやはりリスク・キャパシティの観点からは適切ではない可能性があります。

 

この若者には、老後までの期間や豊富な人的資本などを理由に、ミドルリスクに誘導することが適切といえるでしょう。

 

結局、顧客本位とは顧客の顕在化しているニーズに合った商品を提案するのではなく、リスク・キャパシティを合理的に推測し、それに基づいて潜在的なニーズに合う運用を提案することだと私は考えます。そのためにも、リスク・キャパシティの把握は非常に重要なのです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

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※本記事は「ニッキン投信情報」に掲載されたコラムを転載・再編集したものです。

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