もし親を老人ホームに入居させるとして、まず第一歩として何を理解しておけばいいのでしょうか。老人ホームの裏の裏まで知り尽くす第一人者が、親を老人ホームに入れようと思った時に「知っておきたい選び方、探し方」を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『親を老人ホームに入れようと思った時に読む本』(海竜社)から一部を抜粋、編集したものです。

互助の取り組みは手間暇がかかり、面倒なもの

逆に、支援をされる入居者の気持ちはどうでしょうか?

 

正直申し上げて、私は今まで支援をされる側になった経験がないので心模様はわかりません。しかし、他の入居者から支援を受けている入居者を多く見てきた経験から申し上げると、本人に嫌悪感などはまったくなかったと思います。もちろん、人の世話にはなりたくない入居者もいますし、自分と同じお客なので支援をするのは職員の仕事、役割だと考えている入居者も一定数いたことを付け加えておかなければなりません。

 

老人ホームの中には、家族に対し、もっと積極的にホーム運営の中に入ってきてほしいと考えているホームもあります。さらに、地域住民との連携を深める努力をしているホームもあります。私は、「互助」の観点から申し上げるのであれば、このような取り組みを積極的に、そして、熱心に行っているホームはよいホームだと言えると思っています。

 

なぜなら、「互助」の取り組みとは、老人ホームの運営側から見た場合、手間暇がかかり、面倒な取り組みだからです。

 

よく考えてみてください。「互助」の取り組みを多くの企業活動に置き換えた場合、それは他社との連携業務に近しいものがあると思います。会社員の方には理解していただけると思いますが、他社との連携は難しいものです。自社内で完結させるほうが、どれだけ簡単で容易なことか。これと同じで、介護職員の立場に立って考えた場合、多少、忙しくても自分たちでやってしまったほうが、はるかに楽だということになります。

 

前出の例で申し上げると、入居者に車いすを押させる支援をさせるなら、当然、介護職員がやったほうが楽です。なぜなら、入居者が「互助」でやる場合、勝手に車いすを押させておけばよいと放置できるものではなく、「互助」行為で押している行動を常に注視しながら他の仕事をしなければならないからです。

 

食事の支援も同じです。自分でやってしまったほうが早いし、楽です。しかし、介護職員はあえて入居者にやらせることで、事故などのリスクをとりながら、同時に2人の入居者の自立支援を行っているのです。

 

だから大変なのです。だから難しいのです。介護職員が必死に走り回っているホームは、一生懸命真面目に仕事に取り組んでいるように一見映ります。しかし、それは介護支援を単なる作業として、介護職員が時間、つまり量で解決しているだけのホームです。

 

それより、いつ来ても介護職員は何もしていない、入居者が洗濯物を畳んでいたり、できない入居者の世話を焼いたりして、介護職員は、ただそれを見ているだけのホームのほうが「互助」を大切にしているのかもしれません。そのホームでとくに問題らしき事件は起きていない。もしかするとこのホームはたいしたホームなのでは? こういう目線を老人ホームを評価するときに入れないと、老人ホームの介護職員の本当の質は見えてきません。

 

入居者ではなく、家族が老人ホームに来て掃除や入居者支援の手伝いをしているホームも、少なからずあります。職員不足に対する解決策として家族の活用を考えたのだろうと私は思いますが、「互助」の精神で考えれば理にかなっている取り組みです。

 

多くの老人ホームでは、運営の中に家族が入ってくることには消極的です。理由は多々あると思いますが、私の経験で言わせていただくと、自分たちのやっていることの中にはとてもとてもお粗末なものも多いので、「家族に見られたくない」「家族に知られたくない」ということもあるのではないでしょうか。

 

完璧にすべてができているホームなど、どこにもありません。できていないことは、山のようにあります。重要なことは、できていないことを認め、受け入れて、できるように努力することだと思います。そして、自分たちではできないことは、周囲に助けてもらうということも「あり」だということです。いい意味で開き直って、家族や地域を巻き込んでもっともっと「互助」が機能すればよいと思います。

 

小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役

 

 

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