長期の経営計画がなければ賃貸住宅は〝負動産〟になる
先にも触れたように、賃貸住宅を建てれば相続税や固定資産税の評価額はダウンしますし、借金すればローン残高は負債として相続税評価額から差し引くことはできます。相続税対策だけを考えると、それは決して悪くない選択なのです。実際、数年内に相続が発生すれば、税負担が軽くすんで、大切な資産を守ることができるでしょう。
しかしながら、賃貸住宅の経営は相続税対策とは関係なく10年、20年と続いていきます。相続税対策だけを念頭においた賃貸住宅は十分な市場調査などに基づいて、明確な収支計画のもとで建てられたものではない物件がほとんどではないでしょうか。
相続はいつ起こるか分からないことですが、賃貸住宅経営は建てた時点でスタートし、その後相続の有無にかかわらず継続していきます。十分な市場調査もなく、収支計画も明確になっていない賃貸住宅では、ますます厳しくなる賃貸住宅環境下で、やがては破綻するのが目に見えています。
私の祖父の時代は、さほど急激な変化ではなかったので、破綻に近い状態になるのに10年かかりましたが、今後はそんな余裕もないでしょう。5年もしないうちに経営が成り立たなくなってしまうかもしれません。
もちろん、賃貸住宅経営をやめなさいといっているのではありません。相続税対策などといわれて、住宅メーカーなどの口車に乗せられて、何も分からない状態で建ててはいけないということです。
むしろ、明確な計画のもとで取り組むことには大賛成ですし、賃貸住宅を上手に運用すればより強固な経済基盤、資産形成につながるはずです。ご本人だけではなくご子孫にとっても有益な事業といっていいでしょう。
しかし、現実にはそうとはいえない明確な計画なしで取り組んでしまう人が少なくありません。
甘い考えで賃貸住宅経営に取り組むと、よかれと思って始めた不動産経営が、〝負動産〞化して、身動きできない事態になりかねません。それでも、ご本人は自分がやったことですから諦めもつくでしょうが、子どもたちや孫にしてみればそれはたまったものではありません。本来受け取れるはずだった資産を受け取れないどころか、借金だけを受け取ることになる可能性もあります。
なかには、そうした状態で親から〝負動産〞化した賃貸住宅などを受け取ってしまい、困惑している方もいらっしゃるはずです。
しかしそんな方でも、対策がないわけではありません。現実に私自身、家賃が半額まで低下するほどひどい状態であった賃貸住宅を収益物件にして、それをもとに賃貸住宅の買い増しなどを行えるようになっています。
ほとんど経験のなかった私でも可能になったのですから、それはそんなに難しいことではないはずです。