地主兼サラリーマンとして赤字物件の黒字化に成功し、現在はアパート・マンション経営のコンサルタントをしている川口豊人氏が、相続税対策で建てたアパート・マンションが赤字と借金をうみ出すことになる原因と、建てたら終わりで相談に乗ってくれない税理士やハウスメーカーに代わって経営改善の手段を紹介します。

相続税対策で賃貸住宅がいっそう増加傾向

このように、ブロックやエリアによってかなり事情は異なりますが、それでも世帯数の減少によって、賃貸住宅の経営環境がいっそう厳しくなるであろうことは、どのブロック・エリアにも共通しているといっていいでしょう。

 

ご承知のように、2015年から相続税が増税されました。その柱は、最高税率の引き上げと基礎控除の引き下げです。最高税率は従来の50%から55%に引き上げられ、基礎控除は反対に4割ほど引き下げられたのです。

 

最高税率の引き上げの影響を受ける人は相続人1人当たりの相続税評価額が2億円を超えるケースに限られますから、影響を受ける人の割合はさほど多くはないかもしれませんが、先祖代々土地や家屋を引き継いできたそれなりの資産を持つ家庭などには大きく影響してきます。

 

たとえば、1人当たりの相続税評価額が10億円の人だと、2014年までならその人の相続税額は4億5300万円でしたが、2015年以降は4億7800万円に、2500万円も増えました。これは1人当たりですから、子ども2人がそれぞれ10億円ずつ相続するときには、合計5000万円の負担増ということです。

 

もうひとつ、基礎控除の引き下げも実施されています。最高税率の引き上げに比べて、影響を受ける人の多さからいえば、こちらのほうが大きな問題です。

 

相続税は、亡くなった人(被相続人)の遺産すべてが対象になるわけではありません。被相続人の遺産総額から債務や葬式費用、墓所・仏具などの非課税財産を差し引いた正味の遺産額から、基礎控除を差し引いた金額が課税遺産総額とされ、それが税額計算のもとになります。

 

ですから、相続税は誰もが対象になるわけではありません。正味の遺産額が基礎控除の範囲内におさまれば、相続税はゼロですみます。それが、今回の基礎控除の引き下げによって、課税対象者が大幅に増えるのではないかと目されています。

 

バブルのピーク時、わが国の相続財産のうち7割、8割を土地が占めていました。それが地価の暴落によって最近では5割を切るレベルにダウンしていますが、それでも、土地の比重が大きな割合を占めることは変わりません。

 

土地の割合が大きいということは、地価の高い大都市部ほど相続税が重くのしかかってくるということです。東京23区に限れば課税対象割合が2割を超えるのではないかという試算もあります。

 

このため、大都市部、なかでも都心部での相続税対策への関心が高まっています。特に注目されているのが賃貸住宅です。更地にしていると相続税評価額は路線価そのものでの評価になりますが、賃貸住宅を建てれば借家権が発生して土地の評価額は3割程度下がります。しかも、建物は固定資産税評価額での評価ですから、建築費の半分近い評価ですみます。さらに、アパートローンを利用すれば負債は相続税評価額からマイナスすることができるので、結果的に相続税評価額を大きく減らし、場合によってはゼロにすることができます。

 

住宅メーカーなどでは、2015年からの相続税増税に備えて、こうしたメリットを前面に押し出すことで積極的な賃貸住宅建設促進策を展開してきました。郊外部の地主層はもとより、地価の高いエリアでマイホームを持っている人だけで、これまでは賃貸住宅とはあまり縁のなかった人たちも対象にしています。現在は2階建ての一戸建てを3階建て、4階建てに建て替えることで、賃貸住宅を併設して収益を得ながら相続税対策を行うのが得策と推奨しています。

 

ご承知のように、2014年4月からの消費税引き上げで新設住宅着工戸数は大幅に落ち込みました。2014年度の年間着工戸数は約88万戸と前年度の98.7万戸から大きくダウンしたのです。なかでも、持ち家に関しては前年度の約35.3万戸が27.8万戸に、2割以上の減少を記録しました。

 

それに対して、貸家(賃貸住宅)は37.0万戸から35.8万戸と3.2%ほどのダウンにとどまっています。消費税負担が重くのしかかるなかでも、賃貸住宅は一定の数値を維持しているのです。大手住宅メーカーの経営幹部からは、「賃貸住宅が売り上げを支えてくれた。賃貸住宅がなかったらいったいどうなっていたか、考えるだけでも恐ろしい」という声も聞かれるほどです。

 

この勢いは2015年以降も継続し、注文住宅を中心とする持ち家がなかなか伸びないなか、賃貸住宅の貸家は着実に増えています。

 

すでに、賃貸住宅の経営を行っている人からすれば、それだけ競合物件、ライバルが増えることを意味します。それも、最新の仕様・設備を備えた新築の賃貸住宅ですから、かなり強力なライバルです。先に触れたようにただでさえ人口減少が進み、長い目で見れば世帯数の減少も避けられないなか、新築の賃貸住宅がどんどん増えるのですから、競争は厳しくならざるを得ません。

 

すでに賃貸住宅の経営を行い、手持ちの物件の経過年数が長くなっている人の場合には、続々と新築のライバルが登場して経営環境は悪化していきます。

次ページ長期計画で改善しなければ”負動産”に!

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