NHK連続小説『おちょやん』で杉咲花さん演じる主人公、浪花千栄子はどんな人物だったのか。幼いうちから奉公に出され、辛酸をなめながらも、絶望することなく忍耐の生活を送る。やがて彼女は銀幕のヒロインとなり、演劇界でも舞台のスポットライトを浴びる存在となる。この連載を読めば朝ドラ『おちょやん』が10倍楽しくなること間違いなし。本連載は青山誠著『浪花千栄子 昭和日本を笑顔にしたナニワのおかあちゃん大女優』(角川文庫)から一部抜粋し、再編集したものです。

自らの意思で動かなければ状況は変えられない

村田栄子に弟子入りして2~3ヵ月、演技の基礎ができてきたキクノは、そのチャンスをつかむ。

 

この頃、劇団では子どもたちに人気だった漫画「正チャン」シリーズを劇化して上演していたが、主人公役の女優が急病で倒れてしまった。

 

子どもの役なので、若い女性でなければ務まらない。そこで劇団で一番若いキクノが代役に抜擢されることになる。

 

初の主役。素人に毛が生えたような新人には荷が重かったが、なかばやけくそ。とにかく、子どもらしく元気ハツラツとした演技だけを心がけて、力いっぱい走りまわり飛び跳ねた。

 

無我夢中のオーバーアクション、それが客には大ウケした。彼女のハマリ役となり、劇団の人気女優のひとりとして認識されるようになった。

 

そうなると、

 

「あんたは映画のほうが向いとる。映画会社を紹介するから、行ってみなさい」

 

三友劇場の劇場主から、このような話が持ちかけられる。

 

劇団の経営状況が思わしくなく、給料の払いも遅れるようになっていた。体制立て直しをはかるために、来月からは京都を離れて地方興行に出ることも決まっている。退団してゆく役者も増えていた。キクノにも劇団の先行きが暗いことは分かる。

 

彼女にしても、ここで劇団を見限り、映画の世界に入るのが正解だろう。

 

とは、思う。しかし、演技のイロハを教えてくれた師匠の村田栄子には、恩を感じていた。簡単に切り捨てることはできないのだが、

 

「こんないい話は、二度とないやろなぁ」

 

劇場主がキクノを紹介しようとしていたのは、大手の東亜キネマだった。

 

千載一遇のチャンスである。女優として生きるからには、この機を逃すわけにはいかない。苦渋の決断で、劇団を去る決心をした。

 

自らの意思で行動することを決めたからには、この先も難しい決断を迫られる状況は増えてくる。

 

京都に来てからまだ半年も過ぎていなかった。その間に、キクノをとりまく状況は目まぐるしく動き続けている。

 

ただ耐え忍ぶだけで過ごした日々からは、考えられないことだった。自らの意思で動かなければ、状況を変えることはできない。そのことを悟る。

 

晩年の女優・浪花千栄子は「気が強い」「頑固者」などと人から言われることが多かった。その片鱗はこの頃からしだいに現れはじめている。

 

生涯こうして生きてゆくと決めた。その一途さが、他人にはそう見えていたのかもしれない。

 

青山 誠
作家

 

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