イライラが最高潮に達すると認知症父を叱る
こうやって文章にしてみると、父の気持ちなんて一つも考えていなかったなと、あらためて反省する。
毎日コンビニにおにぎりを買いに行っていたのは、父がおにぎりを食べたかった。ただ、買ったことを忘れてしまっていただけで、昆布のおにぎりを一人で買いに行けるなんて素晴らしいじゃないか!
乗るなと言われている自転車に乗るのは、歩くより楽に長距離を移動できるからだし、91歳になっても自転車に乗れる身体能力を持っているだけですごいぞ!
バスに乗って駅までお惣菜を買いに行っていたのは、ごはんづくりが大嫌いな私が、毎晩夕飯を作ることへの気遣いだったかもしれない。
2階に上がるのは、認知症になる前は2階に父の部屋があったからだけなのだ。
今となればこのように思えるのだが、当時は「なんで私の言うことを聞かない、クソじじい」と思っていたし、イライラが最高潮に達すると、高圧的な口調で「もういい加減にしてよ」なんてことも言っていた、恐ろしく身勝手な娘だったのだ。
認知星と交信し、認知星人に変身
父は1日中怒っているわけでもないし、わけのわからんことを言っているわけではない。数時間前までは普通にテレビを観ていたにもかかわらず、突然スイッチが入ったかのごとく攻撃を仕かけてくるのである。これはきっと、なにかきっかけがあるのではないかと思い、父の様子を観察することにした。
そしてある日、すごい光景を目にしたのだ。
椅子に座りロダンの考える人のようなポーズをとり微動だに動かない父。額にあてた握りこぶしからは、なにやら天に向かって光線のようなものが出ているではないか(そんなふうに見えただけだが)。……ピピピピ、ピピピピ。
「お! これは、どこかの星と交信してるのか?」……ピピピピ、ピピピピ。
数分後、やおら立ち上がった父は、わけのわからん言動を連発しだしたのだ。
「ピピピピ……? もしかして父は、認知星と交信しているのか?」その後もよくよく父の行動を観察していると、わけのわからんことをする前には、必ずこのポーズをとっている。私は確信した。
「父は、認知星と交信して認知星人に変身するのだ」
相手は認知星人である、認知星人には認知星人なりの考えがある。地球人の常識は認知星人にとっては非常識なのかもしれない。地球人にとってわけのわからない言動だが、認知星人にとっては普通のことなのだ。そう思った瞬間。
……ピカッとひらめいた!
地球人のままでは、わが家は暗黒のままだ……。認知星人の気持ちを理解するには認知星人に変身するのがいいのかもしれないが、私はまだ認知星人にはなりたくない。そこで、じーじを笑顔にする「地球防衛軍」に変身しようと決めたのであった。
黒川 玲子
医療福祉接遇インストラクター
東京都福祉サービス評価推進機構評価者
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