10人に1人…高確率で行われる「相続税」の税務調査
相続税は、所得税や法人税に比べ、実際に税務調査が行われる確率が高い税目です。これは、相続税の申告は1人の被相続人に対して一生に1回しかないからです。法人税や所得税であれば申告が毎年行われますから、次回に調査すればよいのです。
データでみるとわかりやすいでしょう【図表】。
平成30事務年度における相続税の調査件数(【図表】❶)は、12,463件とのことです。これは、主に平成28年の相続税申告を確認した件数です。これを、同年に提出された相続税申告書の被相続人数(136,891人)で割ると、約9.1%となります。およそ10人に1人が、相続税の税務調査を受ける計算です(ちなみに、法人税や所得税は3~5%程度です)。
「申告ミス」の発見率は驚異の85%
もう一つ注目すべきなのが、非違割合(【図表】❸)が85.7%、という点です。いざ税務調査が来た場合、10人中8人以上が、間違いを指摘されるということです。
こんなにもミスの割合が高い理由として、(1)相続税申告は税理士であっても慣れていないことが多いこと、(2)対象者(被相続人)が亡くなっているため詳細がわからないケースが多いこと、の二つが考えられます。
まず(1)について、相続税申告は毎年定期的に行うものではないのは先述の通りですが、そのため税理士にとっても取り扱う機会が少ない傾向にあります。税務調査対応となれば、なおさらです。
そして(2)が、奥様にもっとも関係のある点です。相続税申告に際して、税理士が面談を行うのは、遺された遺族(奥様)です。ひとは、自身の数年前のことですら、なんとなくしか思い出せないもの。まして、ご主人の生前の財産の詳細を、正確に記憶しているわけがありません。
税務調査官の「何気ない質問」に隠された意図
筆者は、実際に相続税の税務調査に立ち会うことがあります。税務調査は、だいたい2日間にわたって行われます。1日目の午前中は質問タイムで、午前10時から始まることが多いです。原則として2名の税務調査官がやってきて、税務署のマニュアルに従った、さまざまな質問をされます。中には、「そんなこと聞いてどうするの?」と思うような質問もありますが、その裏には別の意図が隠されています。
例えば、次のような感じです。
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調査官「ご主人は最期、どのようにして亡くなったのですか?」
奥様「ガンで長期入院していて、最期は病院で亡くなりました」
調査官(相続発生よりだいぶ以前から、預金通帳の管理者は本人ではなく、遺族だったのだな)
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調査官「ご主人は生前、どのような趣味をお持ちでしたか?」
奥様「釣りやゴルフ、あとは骨董品の収集等も好きでした」
調査官(釣り好きであれば、船舶があるかもしれない。ゴルフ好きであれば、ゴルフ会員権があるかもしれない。骨董品好きであれば、高価な書画骨董があるかもしれない。これらは相続財産に含まれているかな)
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調査官「遺族の皆様は、どのようなお仕事をされていますか?」
奥様「私は専業主婦です、子供たちは定職に就かず、アルバイトをしています」
調査官(それにしては、事前に確認した遺族の預貯金額が多い。名義預金や贈与があったのではないか)
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もちろん、相続財産の判明を避けるためにウソの回答をするのは脱税であり、絶対にダメです。とはいえ、税務調査官の質問の真意を、ある程度は意識して回答するとよいかもしれません。
相続人の許可なく「銀行口座の照会」が可能
税務調査官は職権により、被相続人の預金口座の残高や、10年間程度の預金口座の入出金履歴を確認することができます。それだけならまだしも、相続人の預金口座の残高や預金口座の入出金履歴まで、相続人の許可・了承なく確認することができます。
これを知って、「見るなとは言わないが、事前に了承が欲しい」と大声で抗議した人が、筆者の周りにいました。しかし、この職権は国税通則法で定められたものですから、怒ってもムダというものです。また、「個人情報保護法に抵触するのでは?」と疑問に思うかもしれませんが、税務調査は同法の例外規定に該当しますので、問題ありません。
「KSKシステム」で過去の申告・納税データを一元管理
KSKシステム(国税総合管理システム)とは、全国12ヵ所の国税局と全国の税務署をネットワークで結び、納税者の過去の申告状況や納税情報を一元的に管理するシステムです。このシステムがあるため、たとえ「実家の愛媛の父さんから多額の現金をもらったけど、僕は東京に住んでるから、税務署管轄も違うし、バレないでしょ」などと思ったとしても、実際には筒抜けです。
また、毎年の法人税や所得税の申告データも蓄積されますので、「例年の所得税申告の状況からすると、これくらいは財産があるはずなのに、相続税申告上では財産が少ないな…」という風に、指摘されるようになるわけです。
以上のように、税務署は、その職権やシステムを活用して、正確な相続財産の把握に努めています。われわれ納税者としては、適正な方法で、節税の余地がないか検討することです。そして、いざ税務調査がきてしまった場合には、丁寧に調査に協力しましょう。
坂本 将来
司法書士、行政書士
古谷 佑一
税理士
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