「NHKが取材したいと言っている」認知症父の妄想
しゅ、出版するの?
ある朝、「ちょっと、話があるので10分ばかりお時間をいただけませんでしょうか」明らかに認知星人に変身済みだ。じーじが敬語を使う時には、たいてい事件が勃発するのでここは気を緩めるわけにはいかない。そこで、こちらも地球防衛軍に変身して話を聞くことに。
「俺はな、満州からの引揚船で三浦環(オペラ歌手)と一緒だったんだよ。船の中で蝶々夫人を歌ってくれてな。そういえば、小澤征爾や森繁久彌も一緒の船だったなあ」と懐かしそうに遠くを見る。
そんな有名な人と同じ船で引き揚げてきたなんてことは今まで聞いたことはないが、まあ、気にしない(あとで調べたことだが、三浦環はそもそも、満州に住んでいたことはないようなので、引揚者ではないらしい。小澤征爾は満州で生まれているが、終戦前に日本に戻っているようだ)。それより話の続きが気になる。
「でな、俺は、細菌学者の『もちづききはち』と一緒に仕事をしてな。溥儀さんからも資料をいっぱいもらっているんだ」また出た! ラストエンペラー溥儀。細菌学者だという『もちづききはち』という名前は、じーじがお世話になった方で、鉄工所を経営していた社長さんではなかったのか?
「ところで相談だが、俺は数々の国家機密を知っている貴重な人物だからNHKが取材したいと言っている。取材に来た際には、れーこに同席してほしいのだが」
どうやら、じーじの頭の中では、NHKが取材に来ることになっているらしい。あまりにも話が壮大過ぎて笑うしかないのだが、本人はいたって本気である。
最近ではほぼ毎晩「自分が知っている国家機密の裏をとるため」と称して、大連時代の友人に電話をかけまくるようになった。
しばしば電話番号を間違えるらしく「〇さんのお宅ではないんですか? おかしいですね、〇さんは、お引越しされたんですか?」と、間違えて電話をかけた先の人を問い詰める始末。
運よく!電話がつながると(そのくらいの確率でかけ間違えている)、遠距離恋愛中の恋人同士のように、1時間以上話す、話す。そして、電話を切る最後には、必ず決め台詞のように「では、NHKから本が出版されたら送りますから」と一言。
NHKから取材を受ける話じゃなかったんかい!
黒川 玲子
医療福祉接遇インストラクター
東京都福祉サービス評価推進機構評価者
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