
「親が認知症で要介護」という境遇の人は今後、確実に増加していくでしょう。そして、介護には大変、悲惨、重労働といった側面があることも事実です。しかし、介護は決して辛いだけのものではなく、自分の捉え方次第で面白くもできるという。「見つめて」「ひらめき」「楽しむ」介護の実践記録をお届けします。本連載は黒川玲子著『認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌』(海竜社)から一部を抜粋、編集した原稿です。
腕時計の日にちを進めて解決の巻
日付はどこでズレた?
じーじは、お正月に腕時計を買った。しかもその腕時計、ベルトも文字盤もまばゆいぐらいのゴールド。あまりセンスのよい時計とは思えなかったが、じーじが「欲しい」と言うので購入したのだ。今回は、この時計が事件の引き金となったのである。
「今日は、〇〇デイサービスの日だろ」とじーじ。じーじは曜日ごとに異なる2か所のデイサービスを利用しているため、たまに確認してくる。「今日はXXデイサービスだよ」というと、「そんなはずはない。今日は3月4日だから〇〇デイサービスだ」と明らかに2日間違えている。

以前も日付がわからなくなったことがあるが、毎朝、新聞の日付にマルをつけて確認することを習慣にしてもらったところ、最近は間違えなくなっていた。そこで、新聞を見てあら! びっくり。なんと、新聞の一面に書いてある3月6日の「6」の文字に大きくバツの印、そしてその横には「4」と書いてあるではないか。
そういえば、昨年の夏も日付がわからなくなった事件があり、カレンダーの日付を勝手に書き換えていたことがあったのを思い出した。
そこで今回は、スマホを見せて「今日は6日だよ」と言うと、「そんなはずはない、世の中みんな間違っている、いいか、これを見ろ」と腕時計を差し出すじーじ。確かに腕時計の文字盤の日付は「4」。時計を購入したのが1月。1月は31日まであるので、2月は正確に日付を刻んでいた。ところが今年の2月は29日までで、月が替わった時に調整をしていないために日付がズレてしまっていたのだ。
「時計の日付を合わせてあげるね」と言うと「な~にをおっしゃっているんですか? この電波時計(実際は電池式)は1分1秒の狂いもなく時を刻むのですよ。だいたい時計の日付を合わせるなんて聞いたこともありませんね。自分で確かめますから結構です」と敬語を連発。
これ以上時計の話をすると、認知星人ダース・ベイダー版に変身しかねないので、「私も調べてみるね」とその場をやり過ごすことに。
その日の夜、じーじが爆睡中に時計の日付を2日進めて作戦終了。次の朝、何事もなかったように新聞の日付欄にマルをつけるじーじであった。めでたし、めでたし。