「親が認知症で要介護」という境遇の人は今後、確実に増加していくでしょう。そして、介護には大変、悲惨、重労働といった側面があることも事実です。しかし、介護は決して辛いだけのものではなく、自分の捉え方次第で面白くもできるという。「見つめて」「ひらめき」「楽しむ」介護の実践記録をお届けします。本連載は黒川玲子著『認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌』(海竜社)から一部を抜粋、編集した原稿です。

「お散歩ですか」ご近所の一言で正常化?

ご近所の一言で笑顔

 

じーじは、真冬の寒い時期には徘徊はしないので気を許していたところ事件は起こった!

 

とある日曜日、じーじは朝から、NHKから頼まれた(じーじ曰く)という自分史の執筆活動に夢中の様子。安心して2階で仕事をしていたのだが、お昼ごはんの用意をしようと1階に降りてきたら、姿が見当たらない!

 

庭を見ても姿はなく、お散歩のお供であるシルバーカーもない。今日は、裏の関所のおばちゃん(じーじの徘徊をいち早く見つけてくれるありがたい存在)の目をすり抜けて出掛けてしまったらしい。あわてて近所を探すも姿は見えない。「じーじ~!」と大声で叫んでみても、返事がない。

 

認知症父が一人で訪れた場所とは…。(※写真はイメージです/PIXTA)
認知症父が一人で訪れた場所とは…。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

まあ、恐ろしく耳の遠いじーじに聞こえるはずもないのだが。

 

「もしや」と思い、じーじが引っ越すと言っている新築分譲住宅のところに行ってみると、やっぱりいた。

 

「黙ってお外にいかないでよ」と怒鳴りたいところだが、そこはグッとこらえて「何してるの?」と聞くと、「家を買いに来たんだ。どうだ、ここの角とその隣の土地を買うことにした。日当たりはいいし、車も3台は止められるな。俺が一人で住んでもいいな」とご機嫌。

 

おまけに「おい、これから買いに行くから支度をしろ」と言い出す始末。「今は更地だけど、分譲住宅だから土地だけでは買えないかもしれないよ」と言うと、怒りん坊星人のスイッチON!

 

「お前には頼まん! 俺は一人で家を買いに行く」と、自宅とは反対の方向にすごい勢いでシルバーカーを押しながら歩きだす。前から車が来ても、道の真ん中を突き進むじーじ。猪突猛進とはこのことだ。

 

このままでは大変なことになると思っていたところ「お散歩ですか」とご近所さんの一言に笑顔で話し出すじーじ。さすが外ヅラ良夫君の異名を持つだけあって、さっきのダース・ベイダーの表情はどこへやらだ。

 

分譲住宅の話で盛り上がること数分後、「もう完売らしいぞ」と一言。そんな会話は一言も聞こえなかったが、耳の遠いじーじにはそう聞こえたらしい。どうりで、途中から話がかみ合っていないと思っていたら、そういうことだったのか。

 

とにもかくにもめでたしめでたしなのであった。

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認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌

認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌

黒川 玲子

海竜社

わけのわからない行動や言葉を発する前に必ず、じーっと一点を見据えていることを発見! その姿は、どこか遠い星と交信しているように見えた。その日以来私は、認知症の周辺症状が現れた時のじーじを 「認知症のスイッチが入っ…

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