手を伸ばししきりに動かしている。聞いてみれば。
骨折となると退院させるわけにもいかず、考えると気が滅入ってくる。
パンが天井に並んでいると言った後、今度は目の前に手を伸ばししきりに動かしている。何をしているのかと聞けば、戸棚に埃が付いているので拭いているのだと言う。
「ベッドの上に棚なんてないけど」と言っても、「ちゃんとここにあるやないか」と言って止めようとしない。本人には確かに見えているのだ。幻だけど。
とにかく、夫には帰ってもらい寝る準備をする。私もくたくたに疲れたから、少しでも寝られる時に寝ようと思ったのだ。
しかし姑は眠るどころか手すりを持っては起き上がり、布団をたたんだり広げたり、腰に敷いたバスタオルを引っ張って放り投げる、手すりを外そうとゆするなど一時もじっとしていない。
それから今度は目の前の詰所をベッドからじっとうかがい、「公ちゃん、あそこで集会やってるんか」と聞く。
あそこは看護婦さんの詰所で、今は夜勤の看護婦さんが患者さんの世話のために寝ずに働いているのだと説明する。
どうやら宗教団体の集会所だと思っているらしい。一応納得したので静かに寝てくれると思いきや、また起き上がりごそごそする。