手術は成功したが嫁の負担は増えていく。
手術はうまくいったようだ。良かった。部分麻酔なので意識ははっきりして変わりなく、先生や看護婦さん方が酸素の量や血液の検査、血圧測定に体温測定などできりきり舞いの状態である。
血液が少なめで酸素不足になると、脳のダメージが強くなるからとの説明があり、結局、術後輸血することになる。本人はいたって元気で術後とも思えない。
点滴する手は動かすし酸素は抜くし額のガーゼは取るし、やりたい放題だ。私のほうは目と手が離せない。点滴の腕は二重、三重に防御してあるものの指先に酸素モニターのクリップが挟んであるのでしっかり握っていなければならない。
私も馬鹿力には自信があるが、彼女にはかなわない。すごい力で私の手から自分の手を引き抜き、あっという間に酸素を外しモニターのクリップも外してしまう。
この時改めて悟ったのだ。人には潜在的にすごい能力が備わっていることを。しかしどうして、こういう時にその力を発揮するのだ。自由になりたい一心からか。
その夜は夫と娘が付き添う。明け方まで妄想が強く、店をまた始めるとか葬式の段取りはどうなっているかと言ったり、相変わらず動き回るし点滴は抜こうとするし、自分たちが休めないので手を縛ったそうだが何度も解かれ、その集中力にはまいったとのこと。やはり潜在能力のなせる業だ。