ヒアリング調査で第三者の視点を活用してみる
当時の私の場合は、個人的にまったくの自腹でお金を出してコーチングを始めたばかりでしたので、残念ながらこの「360度フィードバック」を行う程の金銭的余裕も、病院内での支援体制も整っていない状況でした。
しかし、まずは現状をきちんと把握することができないと、その後の「働き方改革」の方針のピントがどんどん外れていってしまいます。
プロコーチからの宿題などもきっかけとなり、ここは思い切って、自ら各ステークホルダーの先生方に、糖尿病内科に対して「どのようなことで困っているか」「どのようにしてほしいと思っておられるのか」を、糖尿病チームのコメディカルスタッフには「どんなことをやれたらよいと思うか」「残業を減らすためどんなことが必要か」について、積極的にフィードバックをもらいに行きました(第13回参照)。
本来は「糖尿病内科に対してどのようなことで困っているか」ということについて “フィードバックをもらう”側の診療科長が、やむを得ず自らの評価を聴くという“フィードバックをもらいにいく”役を自ら担った訳です。
そうなると、当然ながら、本人を前にして「困っている」正直な気持ちは話しづらい可能性もありますし、客観的な中立性が保ちにくくなります。逆に素直に話してくれるとなると、科長として権限をもっている私への苦情や苦言になることも予想されるわけで、これはこれで耳の痛い話になるわけです。
ですから、基本的には「360度フィードバック」といったヒアリング調査を行うにあたっては、プロフェショナル・コーチなどにお願いするのが一般的ではないかと思います。実際に、国内のいくつかの病院では、ヒアリングをプロフェショナル・コーチなどにお願いするアプローチが見られ、多職種連携やインシデントの減少、離職率の低下など、目覚ましい成果を収めている成果も出てきています。
「医師の働き方改革」を始めるにあたって行うべき、医師やコメディカルスタッフへのヒアリング調査を、専門性を備えた第三者が行うことは病院で働く職員たちが気づいていない、拾いきれていない、さまざまな現場の意見を知る絶好の機会になる可能性があります。
しかも、それをレポートとしてまとめてもらえれば、自院が着手すべき「医師の働き方改革」の課題がクリアになり、現場のニーズを網羅したピンポイントの対策を講ずることができるはずです。
その点では、私のように自分自らが30人もの身近なステークホルダーに直にヒアリング調査を行ったということはかなりレアなケースであるといえますし、かなり苦情・クレームに対して鈍感な大バカ者であったからできたことなのかもしれません。