労働分配率をかさませる「人材関連のコスト」
次に労働分配率(=人件費/付加価値額)が高い件について考えていきましょう。分母である付加価値額の少なさについては、前項で述べたように付加価値を生む仕事にかける時間が少ないからです。したがって、以降では人件費がかさんでいる理由を考えます。
人件費とは、給与、賞与、社会保険料、各種手当、福利厚生費に加え、ここでは人材の採用・育成などにかかる費用も人件費と考えます。
中小企業庁・独立行政法人中小企業(基盤整備機構)が2019年に公表した「中小企業景況調査」によれば、2013年第4四半期以降、全業種で従業員数過不足DIがマイナスになっていました。従業員数過不足DIとは、従業員の状況について「過剰」と答えた企業の割合(%)から、不足と答えた企業の割合(%)を引いた値です。つまり中小企業ではあらゆる業種で人手不足ということです。
従業員1人を採用するのにコストがどれだけかかるか、中小企業経営者なら誰もがご存じかと思います。新卒者の採用では、求人サイトへの掲載費や採用コンサルティング費、会社説明会への参加費、面接に関わる人件費が、中途者の採用では、人材紹介会社に支払う費用などが、かかります。
「大変なコストをかけているにも関わらず、なかなか採用がうまくいかない」と嘆く中小企業経営者を大勢見てきました。
「育てても3年以内に辞めてしまう」…新卒者の離職率
経営者の人材に関する悩みは採用だけではありません。退職する人が多いことも大きな悩みです。多くの経営者は、従業員の定着のために頭を悩ませ福利厚生などの充実を図っていますが、それでも思っている以上に辞めていくのが実態です。
厚生労働省の2018年の雇用動向調査では離職率は14.6%でしたが、このところ16%前後で推移しています。つまり6人もしくは7人に1人は毎年辞めていくという計算になります。新卒者の3年以内の離職率に至っては、もっと大変な数字になっています(図表参照)。
大卒者も高卒者も、事業所規模が小さくなるほど3年以内の離職率が高くなっています。これも、コストをかけているのに採用がうまくいかないのと同様、中小企業経営者にとっては大きな悩みの種です。
業種にもよりますが、1人の新卒就業者が自分の給料分を稼げるようになるには、速い人で1年、平均すれば3年ぐらいはかかるものです。そこまで育成するために、先輩たちは多くの時間をかけて教育しているはずです。また育成だけでなく採用においても、採用担当者である先輩従業員の時間がとられます。それなのに3年以内で辞められては、元も子もありません。
離職率が高いことによる弊害は、採用や育成にかけた時間がムダになるだけではありません。退職に伴い業務の引き継ぎが発生します。これには引き継ぐ側と引き継がれる側の両方に時間が必要になる期間が発生します。
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