よくある「RPA導入成功のカギ」は非現実的
Webや雑誌でRPA関連の記事を見ていると、以下のような手順で導入することが成功のカギだといわれていることが多いようです。
①RPA導入の企画
②パイロットプロジェクトの発足
③パイロット部門での業務の洗い出しと自動化業務の選定
④RPAツールの選定と導入
⑤パイロット部門でRPA導入
⑥導入の検証評価
⑦全社展開プロジェクトの発足と全社導入計画の立案
⑧各部門の業務の洗い出しと事前調査
⑨各部門で選定した業務の自動化の決定
⑩全社展開
これは全社業務改革プロジェクトとでもいうべき大型プロジェクトの進め方です。中小企業でこのような進め方は「現実的ではない」と考えます。
大型プロジェクトでは費用対効果を求められます。そのため「③パイロット部門での業務の洗い出しと自動化業務の選定」の段階でパイロット部門の業務を洗い出し、ロボット化できそうな業務を選定し、節約できるコストを計算しなければなりません。節約できるコストが、RPAツールの初期導入コストと運用コストを合わせた額よりも大きければ導入が決定されますが、それ以下であれば却下されます。
「費用対効果を目的とした導入」は失敗の典型例
しかし、中小企業がRPAの導入を進める場合、最初に費用対効果を目的にしてはいけません。なぜならば費用対効果を見積もるのはとても難しく、時間もかかり、もっといえばあまり意味がないからです。
経営者が「費用対効果を検証しろ、削減コストが導入運用コストより大きくないと稟議は通さない」というと、RPA導入を企画した人は、コストの削減分を見積もることになります。ですが、ロボット化する業務を洗い出して、削減できるコストを集計するにも大変な労力と他部門の協力が必要になります。
大企業であれば、人海戦術でコスト計算ができるかもしれません。あるいはコンサルティング会社にRPA導入の企画のフェーズを丸々外注することが可能です。しかし中小企業には、そこまでの余力がありません。専従の担当者を1人用意するのも大変ではないでしょうか。多くの中小企業では、2~3割程度の時間を割ける兼任の担当を1~2名おくぐらいが限界だと思われます。
そう考えると、先の10ステップにわたる大型プロジェクト的な進め方は、中小企業には現実的ではないと分かります。中小企業に適した導入方法でやらなければなりません。その方法こそが、「1人を助けるロボット」を次々と作っていくというやり方です。
RPA導入のタイミングは、自動化したい業務を発見次第
「1人を助けるロボット」とは、人が苦手とし、ストレスになる仕事を代行するロボットのことです。具体的には以下の特徴のある仕事でした。
①単調な繰り返し
②誰がやっても同じ結果
③長時間続く
④深夜や休日の労働
⑤待ち時間が多く、待っている間はほかのことができない
⑥定期的だが忘れてしまう
これらに属する仕事は、単調で成長ややりがいを感じにくい、また疲れによるエラー、やり直しの負担、スケジュールとメールによるアラートを気に留めるなど、ストレスを多く感じます。こういった仕事から解放してあげることが定着につながります。このような仕事を見つけだして、一つひとつロボット化していくというのが、中小企業に最適なRPA導入の方法です。この方法を「ワン・バイ・ワン方式」と名付けることにしました。
たとえるとオフィスの掃除のようなものです。一斉にきれいにしようとすると大変です。全員の日程を調整し、丸一日、ほかの業務を止めることにもなりかねません。しかし汚れに気づくたびにそこを掃除するようにしていたらどうでしょうか。わずかな手間でオフィスがきれいな状態がずっと続くことになります。一斉にきれいにしようとするのが大型プロジェクトであり、都度掃除するのがワン・バイ・ワン方式です。
ワン・バイ・ワン方式が中小企業に向いていると断言できるのは、中小企業である私たちの事務所で、この方式でRPA導入を実践し成果が出ているからです。業種は、農業から製造業、ビル管理会社、サービス業、産業廃棄物業まで多様です。そしてこれは、必ずしも全社で取り組むプロジェクトではありません。
そして、導入された会社に共通するのは納品したロボットが1体では終わらないということです。1体納品すると、もう1体、もう1体と追加依頼があります。ロボット化したい業務が次から次へと浮かぶようです。これに対して費用対効果を検証はしていません。
もちろん事前に見積もるので分かりますが、それよりも単純な作業から解放された、もしくは忘れることなく対応している、エラーが起きないなどを実感し、追加で導入してくれるのです。そして結果的には時間が削減され、大きな効率化が達成できるのです。全社プロジェクトでは、成果が上がっていないことを踏まえると、ワン・バイ・ワン方式による導入が中小企業には最適と考えます。
もう1つ「1人を助けるロボット」のいい点があります。それは業務フローを変更することも、誰かの協力を得ることもない点です。だからワン・バイ・ワン方式で導入できるのです。全体最適を考えずに、今の業務フローをそのまま置き換えるだけでいいのです。
導入前の「洗い出し」では見えない実際のメリット
ワン・バイ・ワン方式が中小企業に適したRPAの導入方法であることを、もう少し論理的に説明します。
重要なのは、RPAツールを生産性向上やコスト削減のものととらえるのではなく、「人の苦手な仕事を代行する」ものと考えることです。このことは、先ほども述べましたが、重要ですので再度、お伝えしたいと思います。
RPAを導入すると、まずは人が苦手な仕事をしていた時間が削減されることになります。これによる効果は2つあり、1つは時間ができること、もう1つは従業員のストレスが減ることです。
できた時間は、付加価値を生む業務に充てれば、当然ですが、付加価値のある仕事が増えます。つまり、労働分配率の分母である付加価値額が増え、やりがいのある、成長できる仕事に使えることになります。
さらにストレスが減れば、従業員の満足度が上がります。満足度が上がれば、定着率も高くなり、結果、引き継ぎや育成、代替要員の採用などにかけていたさまざまな人材に関するコストが減ります。また熟練度が増し、生産性が高まります。したがって分配できる利益が増えるので給与アップも達成できます。
このように論理的に見ても利益が出るのは間違いありませんが、この利益額を、対象業務を洗い出し、それぞれをロボット化したときに削減できるコストの総額と見積もるのは意味がありません。【図表】を見れば分かるように、会社全体が改善されることで、利益につながっているからです。
田牧 大祐
株式会社 ASAHI Accounting Robot研究所 CEO
佐々木 伸明
株式会社ASAHI Accounting Robot研究所 CTO
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