Webで見る「大がかりなRPA導入」は中小企業に不向き
前回の記事『「人件費は削減できません!」日本の労働生産性を上げるには?』(関連記事参照)では、RPA導入のメリットを解説しました。RPAを導入することで、人は苦手な仕事と価値を生まない仕事から解放され、やりがいがあり、付加価値を生む仕事に集中できるようになります。
しかしながら中小企業でRPAを導入して、経営課題が解決したという事例はあまり聞かず、導入自体もあまり進んでいないようです。
なぜ導入が進まないのでしょうか。簡潔に述べると、RPAの導入を大がかりなものと考えているからだと思います。
Webで「RPA導入」を検索すると、数多くの記事がヒットします。そのなかから無作為にいくつか読んでみると、「RPA導入の方法」は次のようなステップで行うものだと、一般的には認識されているようです。
①RPA導入の企画
RPA導入の目的、ゴールを明確にし、導入計画を策定する。
②パイロットプロジェクトの発足
パイロット(先行的にRPAを導入する)部門やシステム部門などのメンバーを選出し、役割分担を決める。
③パイロット部門での業務の洗い出しと自動化業務の選定
パイロット部門で行われている業務を洗い出し、業務プロセスを確認し、RPAで自動化(ロボット化)する業務を選定する。
④RPAツールの選定と導入
RPA導入の目的やゴール、ロボット化する業務の特徴などから最適なRPAツールの選定と導入を行う。
⑤パイロット部門でRPA導入
パイロット部門にRPAを導入し、テスト稼働をする。
⑥導入の検証評価
パイロット部門での導入による業務改善を検証しレポートを作成。全社展開するかを検討する。
⑦全社展開プロジェクトの発足と全社導入計画の立案
全社展開プロジェクトを発足し、各部門からメンバー選出と導入計画を立案する。
⑧各部門の業務の洗い出しと事前調査
部門ごとにRPAに代替すると効果が高そうな業務を洗い出し、フローを選定。並行して自動化に向けたフォーマットの統一やイレギュラー業務の割り出しと対応を検討する。
⑨各部門で選定した業務の自動化の決定
各部門で選定した業務フローを全社展開の対象とするか、部門間での上流・下流とを調整し、導入するかしないかを決定する。
⑩全社展開
自動化する業務の順序を決め、全社展開する。
ここまで書き上げるだけでも長い道のりを感じます。このように全社展開する場合は、全社の業務改革プロジェクトといったかなり大がかりなプロジェクトになります。少なくともプロジェクトマネージャーは専任が望ましく、メンバーは兼務だとしてもかなりの時間をこのプロジェクトに割くことになるでしょう。
また、これらを進めるにあたり、パイロットの段階ではRPAがなにか知らない従業員に協力を依頼したり、この取り組みに反対する勢力が生まれたりしないようにしなくてはなりません。RPA導入への従業員の不安を取り除き、説明会などを行いながら丁寧に進める必要があります。
このような大がかりなプロジェクトを、人手不足に喘いでいる中小企業が遂行するのは現実的とは思えません。
大企業も人が余っているわけではありませんが、中小企業に比べると余力があり、足りないリソースは外注で調達するだけの資金があります。また数々の大型プロジェクトを実施してきたノウハウもあります。
ですので、先の進め方は大企業には可能でも、多くの中小企業にはハードルが高いといえるでしょう。実際にRPAを導入している中小企業でも、ここまで大がかりなプロセスを経て導入している企業は少ないと思います。中小企業には中小企業に適した導入の方法があります。
最初から「コスト削減・効率化」を意識すると失敗必至
ここで中小企業経営者や中小企業でRPAの導入の検討を任された方に、強く申し上げておきたいことがあります。それは、中小企業では最初から効率化やコスト削減を目的としてRPAを導入しないでくださいということです。
これまで労働分配率を下げるため、あるいは生産性を高めるためにRPAの導入を勧めてきたので矛盾するようですが、はっきりした理由があります。それは、最初に効率化やコスト削減を目的とすると、導入を決定するには、どれだけ効率化されるか、およびどれだけのコスト削減ができるかを算出しないといけなくなるからです。
中小企業経営者は押し並べてコスト意識が高いがゆえに、コスト削減、効率化を目的としたくなります。しっかりとした効果測定をしたいと考えます。だから最初にどれだけコスト削減できるかを調べたくなるのです。しかしそれが間違いの始まりです。多くの中小企業が、この経営者の意識によって、RPAの導入が検討段階から進まないまま終わってしまい、結果的に中小企業に普及しない原因になっていると感じます。
効果を算出するためには、前項でいう「③パイロット部門での業務の洗い出しと自動化業務の選定」を行わなくてはなりません。そして、選定した業務に現在かかっているコストと生み出している付加価値を算出し、RPAを導入することで、どれだけコストが削減できるかを計算します。中小企業にとっては、これだけでもかなり大がかりな作業ではないでしょうか。
実際、私たちにRPAの導入について相談された人のなかには、業務の洗い出しと導入効果の算定に取り組んでいる方がいました。あれから半年以上経つのですが、まだ導入効果の算定が終わらないのだそうです。これではいつになったらRPAが導入できるのか分かりません。
効率化やコスト削減を第一に考えるのではなく、RPAの導入を検討している業務で、従業員のストレスがどれだけ軽減できるか、また価値を生まない業務にかかる時間がどれだけ削減できるかに注目してください。そして、多くのRPAツールが無料トライアルを提供しているので、例えば、毎月20時間かかっている業務が、RPAによってどのぐらいで終わるか試してみるといいでしょう。著しく短くなるならとりあえず導入してしまうことです。
ストレス軽減と価値を生まない業務にかかる時間の削減を目的にすれば、定着率の向上効果で労働分配率が下がります。価値を生まない時間を減らすことで、付加価値を生む仕事にかかる時間が増えますから、生産性が上がります。結果として、中小企業を悩ませているほとんどの課題を解決します。
ただし費用対効果を検討せずに導入するわけですから、低価格なRPAツールを選ぶのがいいでしょう。ただ低価格ならなんでもいいわけではなく、最も低価格のものを選べばいいという考え方では失敗します。重要なのは、中小企業に最適なRPAツールを知ったうえでできるだけ低価格のものを選ぶ、ということです。最適なRPAツールの選び方は次回以降で詳説します。
田牧 大祐
株式会社 ASAHI Accounting Robot研究所 CEO
佐々木 伸明
株式会社ASAHI Accounting Robot研究所 CTO
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