人手不足、減らない残業、かさむ人材採用コスト…中小企業の経営課題は尽きることがありません。そんななか、これらの課題を一気に解決できると注目を集めているのが「RPA」(ロボティック・プロセス・オートメーション)。しかし導入率は未だに低く、失敗する企業が少なくありません。導入に失敗する企業、成功する企業の違いは何でしょうか? 事例とともに解説します。※本連載は田牧大祐氏、佐々木伸明氏の共著『中小企業経営者のための「RPA」入門』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

月1回でも負担大…従業員が訴えた「ストレスな仕事」

前回の記事『コスト削減・効率化に張り切る企業が「やって後悔したこと」 』(関連記事参照)では、中小企業がRPAを導入する際、最初に効率化やコスト削減を目的としてはいけないと述べました。しかしそう簡単に納得できない方もいらっしゃるでしょう。そこで、これを裏付ける事例を紹介したいと思います。

 

6店舗の小売店を運営しているZ社(仮称)では、「人件費率推移表」という売上高、原価、粗利益、人件費、労働分配率の推移をモニターするためのレポートがあり、筆者の会計事務所で作成しています。これは会計データや給与データから必要数値を算出し、売上高推移と人件費推移などを計算してレポートにするもので、店舗ごとに毎月集計しています。

 

Z社から受け取った各店舗の月次決算ファイルを開いて、多種多様なデータをExcelシートに転記すればレポートができあがるのですが、1店舗ならまだしも6店舗分なので、単調で面倒な一連の転記作業を6回繰り返すことになります。入力ミスがあれば、どこで間違えたかをチェックしてやり直します。また6店舗分のファイルが届くまで待っていなければなりません。毎月1回1時間半程度の作業ですが、月初の早い段階での提出が求められており、担当者にとってはかなりのストレスでした。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

担当者がストレスを感じたことはそれだけではありません。作業手順を知っているのは一人の担当者だけなので月初に休めません。ほかの従業員にも業務の内容と手順を知ってほしかったのですが、退職や休職をするというのならともかく、そうでなくても忙しい同僚に時間を取ってもらう口実がありませんでした。

 

1年ほど我慢して続けたのですが、上司にRPAに代替できないかと相談しました。しかし月に1時間半程度の仕事です。費用対効果を前提にすると、ロボット化の対象にはなりませんが、ただ従業員のストレスが削減できればいいと考え、RPAに代替しました。

費用対効果より「ストレス削減」を優先した結果…

ロボットの作成にどれだけ時間を要するか気になっていましたが、人件費率推移表の業務とほぼ同じ、約1時間でできました。実際に動作してみると、1時間半かかっていた業務が1分弱で終わりました。

 

それだけではありません。これまで担当者は、6店舗の月次決算書類が届くのを待っていましたが、この業務専用のフォルダに、できた月次決算書類を保存してもらう運用に変えました。

 

これにより、6店舗のファイルがそろうと、自動でロボットが起動し、処理が終了すると、ロボットが担当者にアラートを送る設定にしたのです。担当者の仕事はアラートを受け取ったら、処理結果を確認するだけになりました。ロボットは入力ミスをしないので、やり直すことは皆無となりました。

 

きっとこのロボットは、効率化を目指していたら、永久に作られなかったでしょう。わずか1時間半の時間削減ですから、そのためにRPAツールの導入というのは割に合いません。ですが、このロボットを作る時間も1時間です。担当者をストレスから解放しただけでなく、年間にすると18時間、3日近くの時間が生まれたことになります。

中小企業が導入すべきRPAは「1人を助けるロボット」

結果として、Z社の担当者が得たものはなんでしょうか。業務自体はロボットに引き継がれたので、担当者は、この業務に関するストレスがなくなり、また人への引き継ぎ業務が不要になりました。ムダな作業である転記がなくなり、空いた1時間半を、価値を生む作業に使えるようになりました。さらに月初の休暇が取りやすくなりました。今後は誰もこの単調な仕事をすることはありません。

 

つまり筆者が中小企業の課題解決策として述べた、苦手な仕事や価値を生まない仕事から人を解放することが、この業務に関してはすべて実現したわけです。

 

筆者はこのように、ある個人をストレスから解放し、休みを取りやすくし、単調な作業から解放してやりがいのある仕事に時間を割けるようにするロボットを「1人を助けるロボット」と呼んでいます。

 

これを業務の洗い出しと費用対効果測定から始まる一大プロジェクトとして始めていたら、このような成果を得るまでに膨大な時間がかかっていたと思います。しかし、この事例では、RPAツールの選定などにかける時間を除けば、ロボットの作成時間である、わずか1時間が費やされたのみです。

 

中小企業では、「1人を助けるロボット」を次々と作っていけばいいのです。そうすれば、結果として数ヵ月程度でRPAへの投資を早々に回収でき、結果として生産性が向上し、労働分配率が低くなり、利益体質の強い企業へ生まれ変わるはずです。

 

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<RPAで変わる中小企業の業務例【図表】>

 

【図表】RPAで変わる中小企業の業務例

 

【導入の結果…】

●人のストレスが減る

●入力ミスがなくなる

●ロボットなので労働時間に制約がない

●休暇がとりやすくなる

●引き継ぎの業務が減る

●作業スピードが早くなる

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田牧 大祐

株式会社 ASAHI Accounting Robot研究所 CEO

 

佐々木 伸明

株式会社ASAHI Accounting Robot研究所 CTO

 

 

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幻冬舎メディアコンサルティング

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