AIの利用が広がるにつれ、多くの士業が「定型的で単純な手続き業務はAIに取って代わられかねない」と危機感を強めています。ITやAIの技術革新の波は今後もとどまることはない。とはいえ、打つ手はあると公認会計士・税理士の藤田耕司氏は語る。本連載は藤田耕司著『経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)から一部を抜粋し、再編集したものです。

なぜ士業の仕事が自動化されるのか

直接的技術的失業の例(1)「パソコン上の単純作業の自動化」

 

近年、AI関連分野で急速に進歩しているのが、学習機能によるパターン認識や「RPA」(Robotic Process Automation)による作業プロセスの自動化技術などです。学習機能で自動化されつつある代表的な業務が、会計の仕訳入力です。

 

藤田耕司著『経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)
藤田耕司著『経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)

これは過去の会計仕訳の内容をAIが学習して、摘要や金額から内容を推測して仕訳を自動作成するものです。また、大量の契約書の内容をAIに学習させることによって、一部の種類の契約書に関しては、レビュー業務も自動化できるようになっています。今後、レビューが可能となる契約書の種類は増えていくでしょう。

 

パソコンでの定型的な作業はRPAで自動化できます。あらかじめ作業の手順を登録しておき、その作業を自動化する点ではエクセルのマクロと同じです。しかし大きく異なるのが、複数のアプリケーションにまたがって手順を登録し、自動化できる点です。たとえば、次のような作業で自動化が可能です。

 

(1)ブラウザを起動し、業務管理システムにつなげてIDとパスワードを入力しログインする

(2)業務管理システムの請求処理画面で、請求先が請求書をダウンロードできる手配をする

(3)コミュニケーションアプリを起動して、請求先の相手を選択してチャットの画面を開く

(4)チャット画面で請求書がダウンロードできる旨の連絡文を入力して、請求先に送信する

 

最近は学習機能を搭載させたRPAも出始めており、このような自動化の活用領域は今後さらに広がっていくと考えられます。

 

また、紙の資料などパソコン外の情報を扱う業務に関しても、OCR(光学的文字認識)の活用でデジタルデータに変換できます。たとえば、OCR機能を備えたスキャナーに領収書を入れると、ほんの数秒で領収書の情報はデジタル化され、仕訳がほぼ自動で作成されます。人間の仕事は領収書をそろえてスキャナーに流し込むだけで、手入力に比べて作業時間は飛躍的に短縮されます。OCRの精度は年々上がっているので、学習機能やRPAと連携することで、自動化される作業はさらに広がります。

 

これらの技術により、複雑な判断を伴わないパソコン内の作業はずいぶん自動化できるようになってきました。実際に大手事務所を中心に、業務の自動化が進められています。

 

また、行政でも業務の効率化に向けた「デジタル・ガバメント実行計画」が進んでいます。行政は少子高齢化による人手不足を解消するため、さまざまな手続きに関して業務の自動化、効率化を推進していく方針です。「申請書や申告書の書式が管轄の行政機関によって異なる」「紙の添付資料作成のために手作業が必要になる」という理由で自動化が難しいとされていた業務でも、行政機関同士の情報連携もあってオンライン化や複数の手続きのワンストップ化などが進んでいます。

 

このように、技術の進歩と行政のインフラ整備の両面から、業務の自動化の流れは今後も進んでいきます。士業の仕事にはパソコンでの単純作業も多く含まれているため、こうした流れは近い将来、多くの士業のビジネスモデルに影響を与えるでしょう。

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経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事

経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事

藤田 耕司

日本能率協会マネジメントセンター

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