技術の進歩は圧倒的な速さで進む
「技術の進歩によって機械が人間の仕事を奪う」。そういったメディアの報道を目にすることが増えました。しかし、実際にどのようなプロセスを経て人間は機械に仕事を奪われるのか、具体的にイメージできない読者も少なくないと思います。このプロセスを知らないままでは、それに向けた対策も的外れな結果につながるおそれがあります。そこで、ここでは技術の進歩が人間の仕事を奪うプロセスについて具体的に紹介します。
生産性の向上による技術的失業と労働移動
技術の進歩により業務の生産性は上がっていきます。「生産性の向上」とは、一人の人間がこなせる仕事量を増やすことを意味しますが、仕事量が一定であれば、その仕事をこなすのに必要な人間の数が減るということです。そのため、仕事量が増えなければ、技術の進歩に応じて雇用は減ります。また、自動改札や製造ロボットの出現など、新たな技術の登場によって人手が不要となり、根本から雇用が減るケースもあります。
このように、技術の進歩によって従事者が仕事を失うことを「技術的失業」といいます。歴史的注目を集めた技術的失業の例として、1811年~17年頃の産業革命時のイギリスで起きたラッダイト運動があります。ラッダイト運動では、機械の普及による失業をおそれた労働者たちが、産業機械を破壊して回りました。
一方で、技術の進歩は新たな労働需要を生んできました。起業家は技術的失業で職を失った労働者を雇用する機会を見つけ、また職を失った人々も新たな職を得るためのスキルを学びました。このように、技術的失業によって仕事を失った人が他の仕事にシフトすることを「労働移動」といいます。技術進歩の歴史の中で、技術的失業が生じるとともに労働移動が行われ、雇用は調整されてきました。
ただ、これからの技術の進歩は、「圧倒的な速さ」で進む危険性をはらんでいます。技術の進歩による生産性の向上は、少子高齢化による労働人口の減少という社会問題を抱えた日本では喫緊の課題です。しかし、技術の進歩の速度は労働人口の減少を補って余りあるほどに驚異的で、労働移動による雇用調整の時間も与えない速さで進んでいく可能性すらあります。
どういった仕事が技術的失業の危険にさらされるかの予測は難しいですが、常にアンテナを張り、自身の仕事に技術的失業の兆候が見られたら、素早く労働移動する体制をとっておくことが、今後の市場を生き残るために不可欠だといえるでしょう。