「人間対人間の仕事に特化」という意味
自動化できない仕事
では、どういった仕事が「人間の仕事」として残るのでしょうか。
東京大学大学院工学系研究科准教授で人工知能学会倫理委員長を務める松尾豊氏は、著書『人工知能は人間を超えるか』(KADOKAWA刊)の中でこう述べています。
「短期から中期的には、データ分析や人工知能の知識・スキルを身につけることは大変重要である。ところが、長期的に考えると、どうせそういった部分は人工知能がやるようになるから、人間しかできない大局的な判断をできるようになるか、あるいは、むしろ人間対人間の仕事に特化していった方がよい、ということになる」
ここでいう「大局的な判断」とは、経営判断や事業判断のように、従業員や顧客との関係、同業他社の状況、財務状況、保有する資産や設備の状況など、さまざまな要素を複合的に勘案して判断しなければならない判断のことです。
AIが機能するためには大量のデータから規則性やルールを学習する必要がありますが、「大局的な判断」は基本的にはサンプルのない唯一無二の判断です。学習サンプルとなるデータがなければ、AIによる自動化は難しいでしょう。
また、「人間対人間の仕事」とは、人のコミュニケーション自体に価値や安心感、満足感を得る仕事や、人間がコミュニケーションをとらなければ解決が難しい仕事のことです。前者はカウンセラーや、臨機応変な対応が求められる接客業、営業職、教師、医師、看護師といった仕事が、後者は人間関係の調整や説得、交渉、謝罪といった仕事が挙げられます。これらは、いずれも人間の感情を扱う仕事だといえるでしょう。松尾氏は、同書で「対人コミュニケーションが必要な仕事は当面は機械で置き換えるのは難しいだろう」とも述べています。
MITスローン・スクール経済学教授のエリック・ブリニョルフソン氏は、著書『機械との競争』(村井章子訳、日経BP社刊)で自動化が難しい仕事についてこう述べています。
「ソフトなスキルの中でも、リーダーシップ、チーム創り、創造性などの重要性は高まる一方である。これらは機械による自動化が最も難しく、しかも起業家精神にあふれたダイナミックな経済では最も需要の高いスキルだ」