士業の業務はすでに自動化の技術が完成
直接的技術的失業についてより詳しくお話ししましょう。
インターネットや雑誌では「AIが士業の仕事を奪う」といった記事が散見されます。たしかにAIの進歩や普及によって、市場は今後さらに変化し、技術的失業は加速することになるでしょう。
ただ、こうした記事の中には、どこまで現場の実態や消費者の心理を把握して書かれているのかについて疑問を覚えるものもあります。というのも、次の点が考慮されていない場合もあるからです。
(1)士業の業務には「パソコンでの作業」と「パソコン外の業務」がある。AIで自動化される業務は前者で、後者はAIによる自動化の対象外である
(2) 技術的には自動化が可能になっても、消費者にそのサービスを利用するためのリテラシーがないと消費者は利用しようとはしない
(3)前記(1)(2)の要件が整ったとしても、その商品やサービスに対する一定の信頼が得られない限り消費者は利用しようとしない
(4)前記(1)~(3)の要件が整ったとしても、技術の導入に伴うコストが人間を雇用する場合のコストを下回らない限り、自動化しようとはしない
つまり、技術的に業務の自動化が可能になるタイミングと、人が仕事を奪われるタイミングには時差があるのです。このタイムラグを、経済学の用語で「ディフュージョン」といい、実際には「技術の誕生」→「ディフュージョン」→「技術的失業」→「労働移動」という流れをたどることになります。
ただし、士業の業務の一部はすでに自動化の技術ができつつあり、ディフュージョンの期間も短期と見込まれる業務もあります。その代表的なものに「パソコン上での単純作業」と「ウェブ上に存在している情報の提供」が挙げられます。それぞれ見ていきましょう。