AIの利用が広がるにつれ、多くの士業が「定型的で単純な手続き業務はAIに取って代わられかねない」と危機感を強めています。ITやAIの技術革新の波は今後もとどまることはない。とはいえ、打つ手はあると公認会計士・税理士の藤田耕司氏氏は語る。本連載は藤田耕司著『経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)から一部を抜粋し、再編集したものです。

「いくら働いても利益がでない」が進行する

ところが、今では「士業の種類(税理士あるいは弁護士など)+地域名」というキーワードで検索すると、その地域の事務所の概要やサービス内容、料金、代表者の顔などがわかります。相見積もりも簡単に取れて、条件に合う士業の事務所への依頼が可能になりました。また、検索結果画面には「〇×顧問報酬月額9800円~」のようにインターネット広告もあわせて表示されるため、より低価格な事務所の情報も手に入ります。

 

このように、低価格な事務所を簡単に探せるようになると、業界の相場の低下は加速していきます。こうした相場の低下を肌で感じている方も少なくないでしょう。

 

低価格化の行きつく先

 

今後、この低価格化はさらに進むことが予想されます。最先端の業務ツールをいち早く導入して生産性と業務効率を向上させ、より低価格でも利益が出る体制を作った事務所は率先して低価格戦略を展開し、業界全体の相場を下げていくでしょう。

 

加えて、家電業界での価格ドットコムや旅行業界のトリバゴのように、AIを活用した「価格比較サイト」も無視できません。こうしたサイトで価格が一目瞭然となれば、その業界の商品やサービスの価格相場は押し下げられていきます。士業の業界でも簡単に価格比較ができるようになれば、さらに相場が下がる可能性はあります。

 

また、従来の士業事務所の業務の一部を、一般の事業会社が格安または無料で提供するケースも出始めました。先行して低コスト化を実現した事務所や一般事業会社によって業界の相場が押し下げられた場合でも、低コスト化が実現できていない事務所は売価を下げるわけにはいきません。とはいえ顧客を獲得できなければ、売価を下げざるを得ず、それでも受注すると忙しく働いても利益を出すことができなくなります。

 

この低価格化競争の行きつく先は、従来の業務をフロント商品として格安あるいは無料にし、その先の顧問契約や各種コンサルティング、システム使用料などのバックエンド商品で利益を出すビジネスモデルへのシフトです。

 

こうしたビジネスモデルが広がると、他社が格安あるいは無償で提供している業務を旧来の価格で提供している事務所は、情報格差を利用できない限り淘汰されます。こうして士業の業界でも間接的技術的失業は進行していきます。いくら働いても利益が出ないという状況であれば、間接的技術的失業がすでに進行しているのかもしれません。

 

藤田 耕司
一般社団法人日本経営心理士協会代表理事
FSGマネジメント株式会社代表取締役
FSG税理士事務所代表
公認会計士、税理士、心理カウンセラー

 

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経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事

経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事

藤田 耕司

日本能率協会マネジメントセンター

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