新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、業績悪化や倒産の危機に直面している企業が増えています。取引先の企業がそのような状況に直面している場合には、取引先の資金繰りや支払能力からみて、取引先に対する債権の回収が困難になるケースが増えてくるでしょう。この点、法人が保有する債権に関する貸倒損失の計上については、いくつかのルールがあり、そのルールを満たさない場合には貸倒損失の損金算入が認められないこともあるため、慎重な検討が必要となります。今回は、法人が保有する債権が貸倒れたり、放棄されたりした場合の税務上の取り扱いを紹介します。

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(b)事実上の貸倒れ(法人税基本通達9-6-2)

基本通達の文言を引用すると下記の通りです。

 

9-6-2 法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。(昭55年直法2-15「十五」、平10年課法2-7「十三」により改正)

 

(注) 保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできないことに留意する。

 

(a)のケースとは異なり、法的整理手続による債権の切り捨てにまで至らない状況であっても、債務者の資産状況、支払能力等という実態からみて、債権の全額が回収できないことが明らかである場合においては、貸倒損失の計上を認めているものです。

 

「全額が回収できないことが明らか」の判定については、債務者の置かれている状況(破産、債務超過など)を具体的に分析し、実質的な判断を行うことが求められることから、当該判定について税務当局と争いになることも多いです。

 

なお、債権について担保が提供されている場合には、その担保物の価値分はまだ債権の回収見込みがあると考えられるため、担保物を処分するまでは貸倒損失を計上できないことに留意する必要があります。

 

(c) 形式上の貸倒れ(法人税基本通達9-6-3)

基本通達の文言を引用すると下記の通りです。

 

9-6-3 債務者について次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対して有する売掛債権(売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権をいい、貸付金その他これに準ずる債権を含まない。以下9-6-3において同じ。)について法人が当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたときは、これを認める。(昭46年直審(法)20「6」、昭55年直法2-15「十五」により改正)

 

(1) 債務者との取引を停止した時(最後の弁済期又は最後の弁済の時が当該停止をした時以後である場合には、これらのうち最も遅い時)以後1年以上経過した場合(当該売掛債権について担保物のある場合を除く。)

 

(2) 法人が同一地域の債務者について有する当該売掛債権の総額がその取立てのために要する旅費その他の費用に満たない場合において、当該債務者に対し支払を督促したにもかかわらず弁済がないとき

 

(注) (1)の取引の停止は、継続的な取引を行っていた債務者につきその資産状況、支払能力等が悪化したためその後の取引を停止するに至った場合をいうのであるから、例えば不動産取引のようにたまたま取引を行った債務者に対して有する当該取引に係る売掛債権については、この取扱いの適用はない。

 

こちらも、(b)と同様に債権の法的切捨てにまで至らない状態であったとしても、1年以上弁済がない場合や、取立費用が債権総額を上回る場合には、実態としては債権の回収可能性が既にないものと考えて、貸倒損失の計上を認めたものです。

 

経過年数(1年以上)や取立費用の大小などの形式的な要件が定められているため、いわゆる形式要件などと言われることがあります。(a)、(b)のケースと異なり、対象となる債権が通常の営業活動から生じる売掛債権に限定されている点に注意が必要です。

 

たとえば、貸付金や損害賠償請求権といった、通常の営業活動以外から生じている債権についてはこの規定の対象外となります。

 

また、「継続的な取引を行っていた債務者」であることが求められているため、仮に営業債権であったとしても、単発の取引で生じた債権については基本的に適用対象とならないことに注意が必要です。

 

しかし、一般消費者向けのネット販売で、継続的に取引を行うことを期待して顧客情報を管理していたが結果的に1回の取引しか発生しなかったようなケースには、この基本通達の適用が認められていますので(国税庁質疑応答事例「通信販売により生じた売掛債権の貸倒れ」)、その債権が置かれている状況に応じて、適切な判断を行う必要があります。

 

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