気前のいい社長。プレゼントしたのはなんと…?
「せっかくなら価値のわかる人、大切にしてくれる人に譲りたい」と考えるのは自然な人情でしょう。であれば、生前に贈与するのが最善の策です。私が知っている社長の中には、100万円ほどもする腕時計を気前よくプレゼントする人がいます。パフォーマンス的な部分もありますが、そのことで人の心をつかみ注目を集める手法はビジネスにおいて大きな効果を生んでいます。
他の物品ではなく腕時計をプレゼントするところがポイントです。時間を気にするビジネスマンが毎日腕につけ、ふと時刻を確認するたびに社長のことを思い出してくれるというのは、他のプレゼントにはない利点と言えます。また、時々「これは、○社長が僕に譲ってくれたんだ」などと宣伝をしてくれることもあるでしょう。プレゼントされた側も、「高級腕時計を贈られるに値する人物」と一目置かれることを期待して、他者に自慢したくなるためです。
高級腕時計はさらに、従業員にプレゼントすると大変喜ばれますし、事業承継においてプラスの効果が期待できます。「これまで一生懸命会社を盛り立ててくれてありがとう。君には感謝しているよ」というような一言をさらりと添えてプレゼントするのがよいでしょう。贈られた従業員は恩義を感じて、後継者の承継に尽力してくれるかもしれません。
購入価格が1000万円を超えるような超高級品をメンテナンスしながらしっかり保存していたようなケースを除き、中古の時計はそれほど高額にならないかもしれませんが、暦年課税方式の贈与の非課税枠内を超える場合には贈与税の申告を行いましょう。
従業員や友人は法定相続人ではありませんから、他の遺贈がなければ仮に贈与後3年以内に相続が発生した場合は、生前贈与と扱われて相続税を課税されることがありません。ただし、この手法には注意点が一つあります。
一歩間違えれば税務調査に…注意点はひとつ!
「私が死んだらあげるよ」と約束して、それまで社長が使い続けるのはNGです。亡くなるまで社長が持っていると相続財産と見なされ、死因贈与として扱われます。超高級品であれば相続税が課税される可能性が生じるだけでなく、相続税申告書に記載されるため妻に存在がわかってしまいます。
贈与が間に合わず単なる高級腕時計を相続させる場合には、相続税申告書に書く文言を工夫することで妻に隠し通せることがあります。不動産や自家用車などと並べて腕時計を単品として記載するのではなく、「その他財産一式:100万円」といった書き方をして相続財産に計上するのです。
これは税務上よく使われている方式で、価値はあるもののそれほど大きい金額にならないものをまとめて申告する際に用います。内容を細々と書かないため、何が含まれているのかは妻があえて調べようとしない限りわかりません。もちろん税務署としても相続財産に計上されているため、仮に腕時計が見つかっても大きな問題になりません。
もっとも、大切な腕時計を大事にしてほしいと望むのであれば、隠しごとなどせずに妻に贈りましょう。「まだ君と時間を刻みたい」などと手紙を添えて結婚記念日を腕時計の裏蓋に刻む、なんてどうでしょう。それも自分の机にそっと入れておきましょう。見つけられた時に「恥ずかしい人」とプッと笑われてもいいかもしれません。腕時計の浪費を妻に知られたくない、などとは言わずに、プレゼントした結果として妻に売却されるのであれば、それはそれで妻のためと思って遺しておくのも一つの対処方法ではないでしょうか。