解説:「でも、お兄さんの言ってることは正しいよ」
■実務論点:貸金庫の開扉の方法
金融機関は、貸金庫の開扉を処分行為と捉えていますので、相続人全員の同意と立会いを求めています。
したがって、遺産分割によって、貸金庫の権利帰属が決定するより前に、共同相続人の一人から開扉の請求があっても、金融機関はこれを拒否する取扱いとなっています。
本件では、相続人の全員の同意と立会いがありますので、貸金庫の開扉ができることになりそうです。
貸金庫の中身は「もう一通の遺言書」
2週間後、かいこう銀行鶴岡駅前支店において、鈴木弁護士も同席し、相続人全員立会いの下、貸金庫が開扉された。貸金庫の中には、表に「遺言書」と書かれた封筒が1通保管されていた。その遺言書の裏には「平成25年9月11日 寺田信太郎」と記載されていた。遺言書を誰が保管するかで長男・真人と祐人らで一悶着あったが、結局、鈴木弁護士が保管し、仏壇の引き出しにあった遺言書とともに遺言書の検認申立てを行うこととなった。
「家庭裁判所から『検認期日通知書』が郵送されるから、検認に立ち会いたければ、その日に裁判所に来てくれ」
鈴木は、そう言うと、遺言書をしまった鞄を持って車に乗り込んだ。祐人が鈴木を見送って銀行のロビーに戻ろうとすると、愛子と話を終えた真人と出口で鉢合わせになった。
「母さんも随分頑固になったな。お前もいつまでもみかんやキウイにこだわってないで賢くなれよ」
真人は、捨て台詞を吐いて、そのままタクシーに乗り込んだ。
いったい何なんだ。祐人がきょとんとしていると、愛子が寄ってきた。
「兄貴に何か言われたのか」
祐人が愛子に聞いた。
「ああ。あの子は、農業なんてやっていても先がないんだから、皆でキウイ畑を売却しようって言ってきたんだよ。お父さんや祐人が頑張ってやってきたんだから、そんなに簡単にはいかないよって言ったら、突然怒りだして…。業者に売却の話をしているって言ってた」
愛子は心底落胆した表情をしていた。
「大丈夫だよ。親父は遺言書で公平に決めておいてくれているはずだよ」
愛子も祐人も、今すぐにでも遺言書を開封したい衝動に駆られた。
【続く】
片岡 武
千葉法律事務所 弁護士(元東京家庭裁判所部総括判事)
細井 仁
静岡家庭裁判所次席書記官
飯野 治彦
横浜家庭裁判所次席家庭裁判所調査官
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