急逝父の遺言書発見も…貸金庫を開けたい長男に家族の不信感が

改正相続法を物語で読み解く本連載。物語は、果実業を営んでいた被相続人・寺田信太郎の死亡から始まる。信太郎には息子たちがいたが、正式な畑の後継者はいなかった。長男・真人は父の跡を継がずに就職。転勤族ゆえに「持ち家」への憧れが強く、信太郎が残した畑を売却し、現金化することを考えていた。※本連載は、片岡武氏、細井仁氏、飯野治彦氏の共著『実践調停 遺産分割事件 第2巻』(日本加除出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

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故信太郎の遺言書を発見。妻・愛子は安堵したが…

「お義母(かあ)さん、おはようございます」

 

亜季は、以前看護師として働いていたこともあり、信太郎が脳梗塞となって以降、夫の隼人に頼まれ、ほぼ毎日信太郎宅に通い、信太郎の世話を行っていた。隼人が亡くなってからは、生活のため、午後だけ市内の病院で看護師として働くようになったが、引き続き午前中は信太郎宅に通っていた。信太郎が亡くなってからも、一人暮らしとなった愛子を心配して毎日午前中に愛子宅に寄ってから職場に向かっていた。

 

「亜季さん、おはよう」

 

愛子は、信太郎が亡くなってから少し塞ぎ込んでいたが、今は週に1回程度は外出し、近所の友人宅に出かけたりしている。耳が少し遠くなったり、足腰は弱くなっているものの、病気を患うことなく生活していた。しかし、ここにきてさすがに杖に頼りながら移動するようになった。

 

愛子は、亜季が来るのを待ちかねたように話し始めた。

 

「昨日、仏壇の掃除をしていたら、引き出しにこんなものがあったのよ」

 

愛子は、そう言いながら仏壇の引き出しから封筒を取り出し、亜季に手渡した。

 

亜季は、渡された封筒の表の字を見て思わず息をのんだ。墨汁で「遺言書」と書かれていた。裏を返すと「平成31年2月28日 寺田信太郎」とあった。

 

「これはお義父(とう)さんの遺言書…」

「ちょっと前に『遺言書を書いておいたからね』と聞いていたんだけどね。どこかの家みたいに骨肉の争いなんてことにならずに済みそうね。お父さんは争いごとが嫌いだったから」

 

愛子の顔が心持ち明るくなった。

 

「早速開けてみましょうよ」

「お義母さん、だめですよ」

 

亜季は、封を切ろうとした愛子の手を止めた。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

解説:「亜季は、封を切ろうとした愛子の手を止めた」

■実務論点:遺言書の検認

 

遺言書の検認は、遺言の方式に関する一切の事実を調査して遺言書の状態を確定し、その現状を明確にするものです。後日の紛争に備えて、偽造・変造を防止し、遺言書の原状を保全する手続です。

 

遺言書の検認手続は、公正証書遺言以外の全ての遺言書に要求されています(なお、遺言書保管所に保管されている遺言書については、検認は不要です。)が、遺言書の検認を受けたかどうかは、遺言の効力とは関係がありません。検認を受けたからといって遺言の有効性が確認されるわけではありません。

 

遺言書の保管者(保管者がいないときは遺言書を発見した相続人)は、相続開始を知った後に遅滞なく、相続開始地を管轄する家庭裁判所に遺言書検認の申立てをしなければいけません(民1004条1項)。

 

実務では、検認期日に相続人等の立会いを求めており、家庭裁判所は、検認期日を指定して申立人及び相続人に通知します(家事規則115条一項)。

 

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千葉法律事務所 弁護士

元東京家庭裁判所部総括判事。

1954年生まれ。千葉地方裁判所、新潟地方・家庭裁判所長岡支部、旭川地方・家庭裁判所、東京地方裁判所、青森地方・家庭裁判所八戸支部、東京家庭裁判所、札幌高等裁判所、横浜家庭裁判所での勤務を経て、東京家庭裁判所家事第5部(遺産分割)部総括判事。2019年退官。

裁判官時代、家事事件の中でもとくに遺産分割事件に多く携わる。当事者の納得を得られる調停運営やウィットに富んだ講演に定評がある。2010年に『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』の刊行以来、相続分野における著作を多数刊行。

【主な著書等】
『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』編著、日本加除出版
『家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務』共著、日本加除出版
『改正相続法と家庭裁判所の実務』共著、日本加除出版
『実践調停 遺産分割事件 ―物語から読み解く調停進行と実務―』共著、日本加除出版
『実践調停 面会交流 ―子どもの気持ちに寄り添う調停実務―』共著、日本加除出版
『実践調停 遺産分割事件 第2巻 ―改正相続法を物語から読み解く―』共著、日本加除出版

著者紹介

静岡家庭裁判所 次席書記官

1961年生まれ。東京家庭裁判所、横浜家庭裁判所、知的財産高等裁判所等での勤務を経て、2020年現在、静岡家庭裁判所次席書記官。

書記官実務の中でも、とくに家事事件全般に多く携わった家事事件のエキスパート。『実践調停』シリーズでは主に物語部分を手がける。理論的で精緻な筆致と柔らかな感性で色彩豊かなストーリーを描く。

【主な著書等】
『実践調停 遺産分割事件 ―物語から読み解く調停進行と実務―』共著、日本加除出版
『実践調停 遺産分割事件 第2巻 ―改正相続法を物語から読み解く―』共著、日本加除出版

著者紹介

横浜家庭裁判所 次席家庭裁判所調査官

1960年生まれ。東京家庭裁判所、横浜家庭裁判所、札幌家庭裁判所等での勤務を経て、2020年現在、横浜家庭裁判所次席家庭裁判所調査官。

家庭裁判所の家事事件、少年事件などの調査を行う家庭裁判所調査官の視点から、とくに、介護や特別寄与の関係を細やかに描く。当事者にとって最もよいと思われる解決方法を検討し、心理的な援助を行うプロフェッショナル。

【主な著書等】
『実践調停 遺産分割事件 ―物語から読み解く調停進行と実務―』共著、日本加除出版
『実践調停 遺産分割事件 第2巻 ―改正相続法を物語から読み解く―』共著、日本加除出版

著者紹介

連載小説「実践調停 遺産分割事件」 ~ストーリーで読み解く改正相続法

本連載における「改正法」は、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成三〇年法律第七二号)」をさします。

実践調停 遺産分割事件 第2巻 改正相続法を物語で読み解く

実践調停 遺産分割事件 第2巻 改正相続法を物語で読み解く

片岡 武

細井 仁

飯野 治彦

日本加除出版

特別寄与料、配偶者居住権、預貯金の払戻しなど改正相続法に則した実務が理解できる! 改正相続法下の遺産分割の解決手法をストーリーと解説で描いた一冊。 <ストーリー> みかん農家を営む寺田信太郎が死亡し、仏壇の…

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