改正相続法を物語で読み解く本連載。物語は、開港市で果実業を営んでいた被相続人・寺田信太郎の死亡から始まる。長男・真人は父の遺産を住宅資金に充てることを目論んでおり、貸金庫にも目を付けていた。開扉には相続人全員の実印が必要であることから、他相続人たちに連絡を取る。一方、相続人たちは長男に不信感を抱いていた。二男・祐人は、高校時代の友人である鈴木弁護士に相談しに行くことに…。※本連載は、片岡武氏、細井仁氏、飯野治彦氏の共著『実践調停 遺産分割事件 第2巻』(日本加除出版)より一部を抜粋・再編集したものです。
解説:「確認するけど、他に遺言書はないのかい」
<改正法Q&A>遺言書の保管制度とは?
自筆証書遺言は、遺言者の死亡後に、遺言書の真正や遺言内容をめぐっての紛争が生じるリスク等があります。そこで、そのリスクを軽減するものとして、法務局において自筆証書遺言に係る遺言書を保管する制度が創設されました。
法務局における遺言書の保管等に関する法律(以下「遺言書保管法」という。)は、申請手続、遺言書の保管、遺言書に係る情報の管理、遺言者の死亡後の相続人等による遺言書保管事実証明書(遺言書保管所における関係遺言書の保管の有無等を明らかにした証明書)又は遺言書情報証明書(遺言書の画像情報等を用いた証明書)の交付請求手続等を定めています(なお、遺言書保管法は、令和2年7月10日から施行されます)。
遺言書保管所に保管されている遺言書については、検認は不要です(遺言書保管法11条)。遺言書保管所に保管される遺言書は、遺言書保管官が保管することになりますから、保管開始後に偽造、変造等のおそれがなく、保管が確実であるからです。
そして、遺言者の保管を行う機関は、全国一律にサービスを提供する必要があることなどの理由から、法務局のうち法務大臣の指定する法務局です。
兄いわく「貸金庫を開けるには全相続人の実印が必要」
「そうそう、今日は貸金庫の問題でも相談に乗ってほしかったんだ」
「電話で言っていた件だろ。でも、お兄さんの言ってることは正しいよ。銀行実務では相続人全員の同意が必要とされていることが多いから。銀行に言われたことを皆に言ってるだけだろう。とりあえず書類を揃えよう。事前にお兄さんに渡すのも不安だろうから、直接銀行に渡せばいいと思う。開扉のときは俺も立ち合おうか?」
「頼むよ。兄貴は、建築メーカーでセールスとかもやってたから、丸め込まれそうで心配なんだ」
「分かったよ」
祐人は力強い味方を得たと思い、ここに来るまでの不安感が一気に消し飛んだ。母・愛子も義妹・亜季も同様だった。
「お兄さんには、俺からも連絡しておくよ。銀行に行く日が決まったら連絡するから」
「ありがとう。連絡待ってるよ」
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千葉法律事務所
弁護士
元東京家庭裁判所部総括判事。
1954年生まれ。千葉地方裁判所、新潟地方・家庭裁判所長岡支部、旭川地方・家庭裁判所、東京地方裁判所、青森地方・家庭裁判所八戸支部、東京家庭裁判所、札幌高等裁判所、横浜家庭裁判所での勤務を経て、東京家庭裁判所家事第5部(遺産分割)部総括判事。2019年退官。
裁判官時代、家事事件の中でもとくに遺産分割事件に多く携わる。当事者の納得を得られる調停運営やウィットに富んだ講演に定評がある。2010年に『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』の刊行以来、相続分野における著作を多数刊行。
【主な著書等】
『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』編著、日本加除出版
『家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務』共著、日本加除出版
『改正相続法と家庭裁判所の実務』共著、日本加除出版
『実践調停 遺産分割事件 ―物語から読み解く調停進行と実務―』共著、日本加除出版
『実践調停 面会交流 ―子どもの気持ちに寄り添う調停実務―』共著、日本加除出版
『実践調停 遺産分割事件 第2巻 ―改正相続法を物語から読み解く―』共著、日本加除出版
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載小説「実践調停 遺産分割事件」 ~ストーリーで読み解く改正相続法
静岡家庭裁判所
次席書記官
1961年生まれ。東京家庭裁判所、横浜家庭裁判所、知的財産高等裁判所等での勤務を経て、2020年現在、静岡家庭裁判所次席書記官。
書記官実務の中でも、とくに家事事件全般に多く携わった家事事件のエキスパート。『実践調停』シリーズでは主に物語部分を手がける。理論的で精緻な筆致と柔らかな感性で色彩豊かなストーリーを描く。
【主な著書等】
『実践調停 遺産分割事件 ―物語から読み解く調停進行と実務―』共著、日本加除出版
『実践調停 遺産分割事件 第2巻 ―改正相続法を物語から読み解く―』共著、日本加除出版
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載小説「実践調停 遺産分割事件」 ~ストーリーで読み解く改正相続法
横浜家庭裁判所
次席家庭裁判所調査官
1960年生まれ。東京家庭裁判所、横浜家庭裁判所、札幌家庭裁判所等での勤務を経て、2020年現在、横浜家庭裁判所次席家庭裁判所調査官。
家庭裁判所の家事事件、少年事件などの調査を行う家庭裁判所調査官の視点から、とくに、介護や特別寄与の関係を細やかに描く。当事者にとって最もよいと思われる解決方法を検討し、心理的な援助を行うプロフェッショナル。
【主な著書等】
『実践調停 遺産分割事件 ―物語から読み解く調停進行と実務―』共著、日本加除出版
『実践調停 遺産分割事件 第2巻 ―改正相続法を物語から読み解く―』共著、日本加除出版
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載小説「実践調停 遺産分割事件」 ~ストーリーで読み解く改正相続法