「地域枠」なら偏差値イマイチでも医者になれる?
深刻化する地方医師不足への切り札として「地域枠入試」が年々拡充している。「医師不足地域で一定期間(9~11年間)働く」ことを条件に、小論文・面接などで地域医療への熱意を加味した上で合否判定を出す制度であり、一般枠に比べて偏差値的には易しい。文部科学省は10月、2021年度の医学部81校の入学定員を前年度比27人増の9357人、うち地域枠が25人増の888人(9.5%)と発表した。
目的別3医大
(1)防衛医科大学校(防衛医大) 給料が支給され、自衛隊としての訓練も
防衛医科大学校は、防衛省が管轄する医大であり、入学した時点で、防衛省所属の国家公務員となる。定員は80人。学費は無料であり、宿舎や制服や給食が支給され、さらに給料(月額約11万円)やボーナスも支給される。「学費と衣食住がタダで、お小遣いまでもらえる」という、「日本一お財布にやさしい医大」といえる。
ただし、戦前の陸軍軍医学校をルーツに持つ「軍医養成所」的な性格を今なお色濃く持っており、その学生生活は独特である。防衛医大は全寮制であり、さらに2~4人部屋での相部屋生活が必須であり、平日は早朝から大音響で流れる「君が代」で叩き起こされる。宿舎と学校は徒歩数分で、外出や外泊も制限があり、繁華街からも離れている(埼玉県所沢市)ため、一般的な大学生のように「授業をサボって自由な青春生活を謳歌」とはいかない。
医大生としてのカリキュラムに加えて、長期休暇中にはパラシュート降下訓練やら硫黄島訪問やら戦車同乗というような、自衛官としての訓練も必須である。というわけで、この軍隊的生活というか自衛隊生活についていけなくて毎年のように早期に辞める者が出現する一方で、順応してしまえばそれなりに楽しい世界らしい。
厳しいカリキュラムを共に乗り越えるので「同期の結束が固い」といわれる医学部だが、防衛医大の卒業生はさらに結束が固い。18歳から25歳ぐらいまでの多感な6年間を、文字通り寝食を共にし、学業のみならずハードな訓練の体験も共有するためであろう。開校当初は男子校だったが、1985年から女子学生も受け入れている。昭和時代には、「電話は公衆電話のみ」「テレビの個人所有は禁止」など、かなり硬派な寮生活だったそうだが、現在では「インターネット可」「看護学生との合同サークルも可」など、時代の波に応じてそれなりに軟化しているらしい。
卒業後は、「自衛隊病院での勤務」のような一般的な勤務もあるが「潜水艦での軍医」「南極観測船同乗」「ジブチや南スーダンなど、海外派遣される自衛隊部隊に同行」「レスリングや射撃など自衛官アスリートを、スポーツドクターとしてサポート」などのユニークな業務もある。2020年のコロナ禍に際して防衛医官は、災害派遣としてダイヤモンド・プリンセス号への医療支援を行い、その後も31都道府県に派遣されている。
9年間の勤務が義務付けられており、それより早期に退職することは可能だが、期間に応じて最大約5000万円を返還しなければならない。