2023年、慶應義塾大学「歯学部」誕生の意味
2020年11月末、「慶應義塾大と東京歯科大は合併協議を始め、2023年度をめどに歯学部を統合」とのニュースが発表された。慶應義塾大学には既に医学部と看護医療学部が存在し、2008年には共立薬科大学と合併して薬学部を設けている。今回の合併で歯学部を追加することで、医療系学部の総合的な研究や教育の推進が期待されている。
慶應大以外の医療系大学の合併としては、2011年に上智大学が同じくカトリック系の看護大学であった聖母大学と合併し、総合人間科学部看護学科を設けた。開設にあたって「国際看護学コース」を新設するなど、看護大の伝統に加えて上智らしい国際性も追加されたカリキュラム編成となっている。また2016年には大阪医科大学と大阪薬科大学の合併が発表され、21年度から大阪医科薬科大学が発足する予定である。
医療業界に属する者として、薬学部開設時より「次は歯学部を物色している」との噂はあったので「歯科大合併」のニュースそのものは驚かなかった。「歯科クリニック増えすぎ」「歯医者のワープワ化」などの報道を受けて私立歯学部の人気は低迷傾向にあり、「6年で歯科医師になれる確率は3割以下」「学費さえ払えば誰でも入れる定員割れFラン校」のような経営困難な歯科大は複数あり、そのいずれかが吸収合併されるのだろう……と予想していたのだ。
「相手が東京歯科大」は個人的には想定外だった。私立歯科大の中では入試偏差値は常にトップクラスであり、2020年の歯科医師国家試験合格率は国公立を含んだ中で全国1位だった。ゆえに、「身売りするほど困っている」ようには思えなかったのだ。
順天堂病院の躍進、慶應病院の凋落とは
ここ10年間、東京都内の大学病院の序列を語るならば順天堂大学の躍進が筆頭に挙げられる。2008年には学費を大幅値下げすることで都内サラリーマン家庭からの進学を可能にして偏差値を上昇させた。また、「上皇陛下の心臓手術を担当した天野篤教授(日本大学卒)」など、学閥にとらわれず優秀な医師をスカウトすることで若手医師の人気を集め、附属病院のブランド力も確立した。
一方、かつての慶應大医学部は「私立医大で学費最安」でもあり人気の一因だったが、リーマンショック不況を受けて2009年に学費を値上げし、他医大の相次ぐ学費値下げによって最安値ではなくなった。その後も、私立医大偏差値トップの座は保ってはいるものの、今なお慶應大出身者を優先する附属病院の風潮は昨今の若手医師に敬遠され、「慶應病院の凋落」などと週刊誌などで報じられることも多くなった。
昭和時代には、解離性大動脈瘤で緊急入院した石原裕次郎氏など、数多の要人が慶應病院で手術を受けていたが、2006年の王貞治監督の胃がん手術あたりを最後に「慶應病院でVIPが手術」のニュースは見かけなくなったように思う。