同僚への劣等感が拭えない僕…外科医の先輩を前にして
外科の先生方の前で挨拶をした。石山病院には外科医は8人しかいなかったが、それでも内科研修の時とは違った体育会系の雰囲気があり、威圧感があった。
「君は外科志望なんだよね。よろしくね」
「外科志望は最近少ないから貴重だな」
後で知ったのだが、長谷川先生が「山川君は外科志望で、一生懸命に糸結びの練習をしていました」と話してくれていたようだ。「実は外科志望ではありません」とは言い出せない雰囲気になってしまい、本当のことがバレたらと思うと先が思いやられた。
一方で、その期待に応えたいという気持ちも芽生えていた。同期の宮岡や細山に対して劣等感を感じていた僕は、その期待が嬉しくもあったのだ。
「外来見学はしなくていいから、とにかく入れる手術には全部入って、できるだけ手術に慣れていこうか」
長谷川先生はそう言って手術予定表の全ての欄に僕の名前を書き込んでくれた。
「外科では決まった手順をその通りにできることが大事なんだ。そうすることで阿吽の呼吸が生まれる。逆に1人でも手順を覚えていないとスムーズにいかなくなる」