遺産分割協議がまとまるまで、遺産は相続人全員の共有財産となります。しかし共有状態は相続トラブルの火種そのもの。できるだけ早くに相続手続きを終わらせることが望ましいのです。ところが物理的な分割が難しい「不動産」など、遺産分割が終わらないまま時代を経てしまう財産も少なくありません。共有状態を解消するにはどうすればよいのでしょうか? 200件以上の相続事件に携わってきた筆者が解説します。※本連載は、武蔵野経営法律事務所代表・加藤剛毅氏の著書『トラブル事案にまなぶ「泥沼」相続争い 解決・予防の手引』(中央経済社)より一部を抜粋・再編集したものです。

解説:相続分の譲渡

「相続分の譲渡」とは、遺産全体に対する相続人の包括的持分又は法律上の地位を譲渡することをいいます。つまり、相続分の譲渡は、積極財産(プラスの財産=資産)と消極財産(マイナスの財産=負債)とを包含した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分を移転するものです。

 

本件では、依頼者と比較的親い間柄にあった相続人の方々が、自分のもっている相続分を依頼者に譲ってもよいと申し出てくれました。相続分を譲渡した相続人は、自分の相続分がなくなることになりますので、裁判所の「排除決定」により調停手続から脱退します。

解説:相続分の放棄

「相続分の放棄」とは、①遺産に対する共有持分権を放棄する意思表示とみる見解と、②自己の取得分をゼロとする事実上の意思表示とみる見解の2つがあるのですが、実務では、①の共有持分権を放棄する意思表示とみて、相続分を放棄した者の相続分が、他の相続人に対してその相続分に応じて帰属するとされています。

 

もっとも、本件のような当事者が多数にのぼる事案では相続分の計算が非常に複雑になってしまうので、相続放棄と同様に、当該相続人は最初から相続人にならなかったものとみなして相続分を計算するという方法もあり、実際に、本件ではそのように計算しました。

 

なお、相続分を放棄した相続人は、相続分を譲渡した相続人と同様、自分の相続分がなくなることになりますので、裁判所の「排除決定」により調停手続から脱退します。

解説:調停に代わる審判

家庭裁判所は、調停が成立しない場合において相当と認めるときに、当事者双方のために、一切の事情を考慮して、事件の解決のため必要な審判をすることができるとされています。この審判のことを「調停に代わる審判」といいます。

 

この「調停に代わる審判」は、たとえば、当事者の一方の頑固な意向により、又はわずかな意見の相違により調停が成立しない場合、調停の最終段階で積極的には賛成はしないが、反対もしないというような場合、調停で合意を成立させることは拒否するが、裁判所の判断には従うので審判が欲しいと主張する当事者がいる場合、本件のように、当事者が多数にのぼる事案で全当事者の出頭が見込めないような場合などに出されることがあります。

 

本件のように、全当事者の合意が成立しない場合でも解決することができ、とても有用な制度です。

 

ちなみに、私が家庭裁判所の「家事調停官」(弁護士の身分をもちながら、毎週1日、家庭裁判所に勤務する非常勤の裁判所職員のことで、「非常勤裁判官」とも言われています)をしていたころ、私自身も何度もこの「調停に代わる審判」を出して事件を解決したことがあります。

 

注目のセミナー情報

【国内不動産】4月25日(木)開催
【税理士が徹底解説】
駅から遠い土地で悩むオーナー必見!
安定の賃貸経営&節税を実現
「ガレージハウス」で進める相続税対策

 

【資産運用】5月8日(水)開催
米国株式投資に新たな選択肢
知られざる有望企業の発掘機会が多数存在
「USマイクロキャップ株式ファンド」の魅力

次ページ揉めやすい「不動産」の分割…何が争点になるのか?
トラブル事案にまなぶ 「泥沼」相続争い 解決・予防の手引

トラブル事案にまなぶ 「泥沼」相続争い 解決・予防の手引

加藤 剛毅

中央経済社

「生前の対策をきちんとしていれば、このような泥沼の紛争にはならなかったのに…」 近年、相続トラブルが増加しています。 相続事件は初期対応が重要です。特に紛争案件は生前対策をきちんと行いさえすれば回避できるも…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録