解説:相続分の譲渡
「相続分の譲渡」とは、遺産全体に対する相続人の包括的持分又は法律上の地位を譲渡することをいいます。つまり、相続分の譲渡は、積極財産(プラスの財産=資産)と消極財産(マイナスの財産=負債)とを包含した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分を移転するものです。
本件では、依頼者と比較的親い間柄にあった相続人の方々が、自分のもっている相続分を依頼者に譲ってもよいと申し出てくれました。相続分を譲渡した相続人は、自分の相続分がなくなることになりますので、裁判所の「排除決定」により調停手続から脱退します。
解説:相続分の放棄
「相続分の放棄」とは、①遺産に対する共有持分権を放棄する意思表示とみる見解と、②自己の取得分をゼロとする事実上の意思表示とみる見解の2つがあるのですが、実務では、①の共有持分権を放棄する意思表示とみて、相続分を放棄した者の相続分が、他の相続人に対してその相続分に応じて帰属するとされています。
もっとも、本件のような当事者が多数にのぼる事案では相続分の計算が非常に複雑になってしまうので、相続放棄と同様に、当該相続人は最初から相続人にならなかったものとみなして相続分を計算するという方法もあり、実際に、本件ではそのように計算しました。
なお、相続分を放棄した相続人は、相続分を譲渡した相続人と同様、自分の相続分がなくなることになりますので、裁判所の「排除決定」により調停手続から脱退します。
解説:調停に代わる審判
家庭裁判所は、調停が成立しない場合において相当と認めるときに、当事者双方のために、一切の事情を考慮して、事件の解決のため必要な審判をすることができるとされています。この審判のことを「調停に代わる審判」といいます。
この「調停に代わる審判」は、たとえば、当事者の一方の頑固な意向により、又はわずかな意見の相違により調停が成立しない場合、調停の最終段階で積極的には賛成はしないが、反対もしないというような場合、調停で合意を成立させることは拒否するが、裁判所の判断には従うので審判が欲しいと主張する当事者がいる場合、本件のように、当事者が多数にのぼる事案で全当事者の出頭が見込めないような場合などに出されることがあります。
本件のように、全当事者の合意が成立しない場合でも解決することができ、とても有用な制度です。
ちなみに、私が家庭裁判所の「家事調停官」(弁護士の身分をもちながら、毎週1日、家庭裁判所に勤務する非常勤の裁判所職員のことで、「非常勤裁判官」とも言われています)をしていたころ、私自身も何度もこの「調停に代わる審判」を出して事件を解決したことがあります。
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